[知床観光船調査] 国の責任も検証が必要
( 12/16 付 )

 北海道・知床半島沖で起きた観光船沈没事故の原因を調べている運輸安全委員会は経過報告を公表した。
 船首付近の甲板にあるハッチ(船倉との昇降口)のふたが密閉されず、海水が入って沈没したと推定。こうした船体構造に加え、出航判断や運航会社の安全管理に問題があったとした。
 これまでにも多くの法令違反が判明している会社側の過失は明白な一方、国の監査や船舶検査に実効性がなかったとも指摘した。国は、運航会社の安全管理のずさんさを見逃した責任をしっかり検証すべきである。
 事故は4月23日に発生し、乗客乗員26人のうち20人が死亡、6人が依然行方不明になっている。安全委の経過報告には、沈没するまでの乗客や乗員の通信内容が生々しく記録されている。
 観光船は午前10時ごろ出航。午後になって浸水が始まり、「救命胴衣を着けろ」「救助頼む」「冷た過ぎて泳ぐことはできない」といった船内の緊迫した声がアマチュア無線や乗客の携帯電話を通じて伝えられた。その後、短時間で沈没したようだ。
 引き揚げられた船体はハッチのふたが外れ、船体側の留め金にも固定具の掛かりが不十分だったと、うかがわせる摩耗があった。そのため、航行中に波を受けて外れたふたが客室の窓を破損し海水が流入、船体の傾斜を早めた可能性がある。
 さらに、乗客の携帯電話の位置情報と気象情報から当時の波の高さを推測した。沈没場所付近では、運航会社が運航中断の基準とする1メートルを超え、2メートル以上の波があったとみられる。
 安全委は調査を続け、最終報告書をまとめる。第1管区海上保安本部は業務上過失致死の疑いで捜査を進めており、運航会社の社長らが事故を予見できたかどうかなどが焦点になる。責任の所在を明らかにし、沈没の原因をはじめ事故の全容を知りたいと願う被害者家族の思いに応えてほしい。
 国土交通省は事故後、安全対策を議論する有識者委員会を設置した。これまでに示された安全対策では法令違反への罰則強化のほか、ドライブレコーダーや、水に漬からず避難できるスライダーが付いた救命いかだの搭載を義務付ける方針だ。
 再発防止策の徹底は急務だが、運航会社がすり抜けた国の監査・検査の不備も検証しなければならない。事故が起きるまで観光船の運航記録簿を十分に点検せず、会社側の説明をうのみにするなど指導監督が甘かったことは否定できない。
 事故後、国交省が全国の旅客船事業者に実施した緊急安全点検でも162事業者に安全管理規程違反などが確認された。形骸化が進む監査・検査の在り方を見直し、事故を二度と繰り返さない体制の構築が不可欠だ。