[防衛力強化-1兆円増税] 規模優先でいいのか
( 12/17 付 )

 自民、公明両党は2023年度与党税制改正大綱を決定し、防衛費増額の財源として法人、所得、たばこの3税を増税する方針を盛り込んだ。
 今後5年間の防衛費を計43兆円に増やすため決着を急いだものの、実施時期の判断は先送りした。与党内の増税反対論や拙速批判に配慮したためだ。
 そもそも防衛力強化に国民の理解が十分とは言えない。使途の詳細な説明がなく、歳出を徹底的に見直そうともしないままの増税である。予算の「規模ありき」の決定で、熟議を欠いたと言わざるを得ない。
 政府は中国や北朝鮮の軍事的脅威に加え、ロシアによるウクライナ侵攻を受け、今年の骨太方針に防衛力の「5年以内の抜本強化」を明記。岸田文雄首相は「内容、予算、財源を一体で議論する」と繰り返してきた。
 ところが、首相は「規模」を優先する。27年度の防衛費を国内総生産(GDP)比2%に増額し、23年度からの5年間で総額43兆円とするよう関係閣僚に相次ぎ指示した。
 財源として政府は歳出の見直し、決算の剰余金、国有財産の売却益や税外収入を充てる案を与党に提示。だが、それでも不足するとして、首相は27年度以降に年1兆円強の増税を実施すると表明した。
 その財源の一つである法人税の負担は大企業に偏る内容とした。安倍政権下で法人税減税が実施された点や、賃上げと投資を抑えて「内部留保」を増やした会社が少なくない点を考えれば仕方あるまい。
 所得税は東日本大震災の復興特別所得税の税率を引き下げ、防衛向けの財源に転用する。復興を願う国民の気持ちをないがしろにする手法ではないのか。
 歳出見直しに関連して、首相や与党から「身を切る改革」の提案が皆無であるのも理解し難い。
 また、政府は自衛隊の施設整備の一部に建設国債を充てる方向だ。国債発行が野放図な軍事費膨張を招いた戦前の教訓もあり、建設国債を防衛費に認めてこなかった従来方針の転換となる。主要国では最悪の国債残高もさらに深刻化しかねない。
 少子高齢化が進んでいる中で歴史的な安保政策の転換と負担増である。安直な防衛増税、なし崩し的な借金容認を拙速に進めてはならない。国会には徹底した議論を望む。