[水産物と温暖化] 国が主導し現状把握を
( 12/18 付 )

 地球温暖化が国内の漁場に大きな変化をもたらしている。
 共同通信の全国調査で、気候変動の影響があると都道府県がみている水産物が61品目に上った。
 漁場の変化には、海洋でのもともと周期的な魚種交代や乱獲も複雑に絡んでいる。魚介類や海藻の現状は未解明な部分が多い。国が的確に現状を把握した上で研究者らの知恵を集約し、適応策を探らねばならない。
 調査は47都道府県の担当部署などを対象に実施された。35都道府県がマイナス、プラス双方で気候変動の影響を受けている水産物があると回答。鹿児島県を含む12県は、有無を「分からない」とした。
 気象庁のデータでは、昨年までの約100年間で、日本周辺の海面水温は平均1.19度上昇。海水温の1度上昇は陸の10度前後上昇に相当するとみられる。日本の漁場は極めて不安定な状況だと言っていい。
 今回、水揚げや養殖が行われている水産物を調査。「影響あり」とされた品目の最多はノリ類だった。17府県が養殖開始時期の遅れや、南方系の魚による食害のマイナス面を挙げた。アワビ類についても10県全てが、マイナスの影響と回答、餌となる海藻の減少などを指摘した。
 海藻資源が減れば、海の生態系のバランス崩壊につながりかねない。影響の広がりに注視が必要だ。
 一方、海藻や貝類と違い、動ける魚は、海水温の上昇に伴い、多くが生息域を移っているとみられる。
 暖かい水温を好むサワラ類の分布域北上はその一例だ。調査に対し、青森県や岩手県を含む14府県が、漁獲量の増加などいずれもプラスに挙げた。
 サケなど北の海の魚種がロシア方面へ行き、北海道の南方には温帯の魚が入る。高水温を嫌うサンマの漁場はどんどん沖合へ移っている実態もある。
 影響は「ほぼ全ての魚」に及んでいる、と推測する専門家もいる。しかし自治体単位での動向把握は極めて難しい。国内の海や河川で何が起きているかをつかめるデータを集約するには、国が調査を主導するしかない。
 都道府県からは、国に対し、高水温にも耐えられる養殖品種開発に向けた支援や、気候変動を踏まえた漁獲量予測といった切実な要望も寄せられた。漁師の高齢化、漁船の燃料高騰などに苦しむ水産業の苦境に応えてほしい。
 サケ類、サンマ、スルメイカなどの不漁が長期に及ぶ恐れを踏まえ、水産庁は昨年、一つの資源に頼らず、収入源を多角化する新たな操業形態への転換を柱に据える対策を公表した。
 漁船の脱炭素化や、干潟の保全など環境問題への取り組みも忘れてはなるまい。産業と地球環境双方の持続性実現への取り組みを求めたい。