[全世代社会保障] 子育て支援待ったなし
( 12/20 付 )

 政府の「全世代型社会保障構築本部」が報告書を決定した。
 柱となる子育て世代の支援では、出産育児一時金の増額をはじめ児童手当拡充、育児休業給付の対象外の自営業やフリーランス向け現金支給などが並んだ。だが、裏づけとなる財源論は、来夏策定する経済財政運営の指針「骨太方針」に先送りされた。
 これから生まれる「将来世代」の安心まで視野に入れた制度にするには、恒久財源の確保が重要だ。少子化は「国の存続に関わる問題」という報告書の危機感を政策に反映させる覚悟を、政府に求めたい。
 世界の中でも際立つ日本の少子高齢化は新型コロナウイルス下で加速した。2022年の出生数は統計開始以来初めて80万人を割る可能性があり、今後20年間で働き手が今より約1500万人も減るという予測がある。
 社会保障費用は20年度の約132兆円が、40年度は190兆円規模と見込まれる。将来の「担い手」を確保できなければ、制度の維持は危うい。
 全世代型社会保障は、これまでの高齢者重視の社会保障制度を見直し、年齢に関係なく経済力に応じた負担を求めると同時に、子育て・若者への支援を強力に推進する-というものである。方向性は正しい。
 報告書は子育て関連で、原則42万円の出産育児一時金を来年度50万円に増額することや、本年度第2次補正予算で計上した妊産婦向けの計10万円相当給付の継続実施を求めた。
 年々上昇しているとされる出産費用の助けになるのは確かだが、長い子育て期間の一部補填(ほてん)でしかない。大学進学などの教育費にも目配りが必要だろう。
 高齢者の医療費膨張に伴って増える現役世代の負担抑制策としては、75歳以上の中高所得者の公的医療保険料引き上げを盛り込んだ。政府は2024~25年度に段階実施する方針を示している。
 一方、介護保険は結論を持ち越した。高所得者の保険料引き上げや、サービス利用の自己負担増などが挙がっていたものの、利用者から生活への深刻な影響を懸念する声が相次いだ。来春に統一地方選を控え、官邸や与党からも強い反対意見が出たようだ。
 「給付と負担」を巡る改革議論は小手先の見直しにとどまったと言わざるを得ない。
 財源見通しの立たないまま報告書が示された全世代型社会保障の議論に比べ、防衛財源については増税が提起された。
 来夏の骨太方針策定が焦点になる。岸田文雄首相が掲げる「子ども予算倍増」にどこまで踏み込めるか。若い世代が安心して子どもを産み育てる環境整備は待ったなしだ。