[原発賠償見直し] 実情に寄り添い支援を
( 12/25 付 )

 文部科学省の原子力損害賠償紛争審査会(原賠審)が、東京電力福島第1原発事故の国の賠償基準「中間指針」を見直した。見直しは2013年12月以来9年ぶりだ。
 精神的損害を認める地域や時期を広げ、賠償対象を拡大した点は評価できる。だが、避難住民らが各地で起こした集団訴訟で東電に対して指針を上回る賠償命令が確定した後での判断である。「遅すぎる」との批判は免れない。
 事故から11年以上が過ぎた今も、計2万7000人超が福島県内外で避難生活を送る。避難者に寄り添い、実情に応じて柔軟に損害認定を行う仕組みにしなければならない。
 11年8月に、避難の費用や仕事ができなくなったことに伴う損害などを定めた中間指針が公表され、東電は指針に沿って賠償を続けている。
 事故により、多くの住民が長期避難を強いられ、慣れ親しんだ地域は姿を変えた。今回の見直しでは、居住制限区域と避難指示解除準備区域で、ふるさと(生活基盤)が「変容」したとして、新たに1人当たり250万円の賠償を認定。計画的避難区域で「相当量の線量地域に一定期間滞在したことによる健康不安」への精神的損害を認め、加算した。
 追加賠償額は総額5000億円前後に達する見込みで、東電は来年1月にも新たな賠償内容を公表する方針だ。速やかに手続きを進めてもらいたい。
 基準改定の大きな要因となった集団訴訟では、福島、群馬など4県の計7件で東電の賠償責任が確定。いずれも高裁判決で、避難継続による精神的被害や生活基盤の喪失・変容に伴う慰謝料を認めた。
 司法判断が出るまでの間、被害実態との乖離(かいり)は長く放置され、避難者に苦労を強いる結果となった。原賠審は判決を待たずに、住民の声に耳を傾けるべきだったのではないか。
 東電の賠償は当初、住民が申し立てた裁判外紛争解決手続き(ADR)で国の原子力損害賠償紛争解決センターの和解案に沿って進めることが想定された。しかし、東電が国の指針を超える賠償を拒否し、センターが手続きを打ち切るケースが増えた。
 東電は14年に示した賠償への姿勢の「三つの誓い」で、和解案の尊重や被害者に寄り添い賠償を貫徹することを掲げていたはずである。誓いに立ち返り、誠実に賠償に臨んでほしい。
 賠償額の妥当性や格差に疑問を抱く人もいよう。今回の見直しには「指針の目安は賠償の上限ではなく、示されなかったから対象にならないものではない」と明示されている。
 裁判では賠償責任を免れた国にも、東電とともに避難者の生活や心情に配慮し、再生に向けて力を尽くすことを求めたい。