[特定秘密漏えい] 防衛力強化に不安募る
( 12/28 付 )

 特定秘密保護法で定められた「特定秘密」を外部に漏らしたとして、海上自衛隊の1等海佐が同法と自衛隊法違反の容疑で書類送検され、懲戒免職処分になった。
 2014年12月に施行された秘密保護法は、防衛や外交などの4分野で安全保障に関する重要情報を特定秘密に指定し、流出を防ぐのが目的だ。漏えい事件の摘発は初めてである。
 政府は防衛力強化に取り組み、自衛隊は反撃能力(敵基地攻撃能力)を保有することが決まった。専守防衛の見直しにつながる大転換だが、相次ぐ情報漏えいに不安が募る。防衛省は事件の究明とともに、実効性ある再発防止策を講じなければならない。
 同省によると、1佐は20年3月、元海将のOBに対し、日本周辺の情勢に関する収集情報を説明した。具体的な内容は不明だが、その中に特定秘密が含まれていたとされる。自衛隊の運用や訓練の情報などもあった。
 1佐は当時、海自の部隊運用を束ねる自衛艦隊傘下の情報業務群のトップだった。いわば機密を扱うプロ中のプロがなぜ漏らしたのか。罰せられることも承知していたはずだ。
 元海将は講演の準備のため最新の安保情勢に関する説明を求めた。自衛艦隊司令部は1佐に元海将への対応を指示。1佐はかつての上司である元海将に「強い畏怖の念」があったという。
 自衛隊で上司と部下の関係から情報が流出したのは、今回が初めてではない。15年には陸上自衛隊の元陸将がかつての部下だった現役の陸将に依頼して部内向けの教本を入手。在日ロシア大使館で勤務していた情報機関員に渡っていたことが発覚した。
 元上司からの申し出を断りづらかったり、気の緩みが生じたりするのかもしれない。だが、自衛隊と米軍の一体化に伴う情報共有が一層進むとみられる中、ずさんな管理は両国の情報交換に支障を来しかねない。現役とOBの間で共有できる情報を線引きしておく必要があるだろう。
 07年にも海自イージス艦の情報流出が明るみに出た。外部への流出は確認されなかったが、イージスシステムを開発した米軍は自衛隊の情報管理の甘さに危機感を募らせた。秘密保護法制定の要因の一つになったといわれる。
 こうした不祥事の背景には防衛省内の教育や組織の体質に問題があると指摘される。本腰を入れて改善に取り組まなければ、国民の信頼は取り戻せず防衛力強化への理解は得られまい。
 6月末現在、各省庁が指定する特定秘密は計693件あり、そのうち防衛省は392件を占める。特定秘密は定義があいまいで政府の判断で範囲が広がり、国民の知る権利が妨げられる懸念もある。法律そのものへの批判が根強いことも忘れてはならない。