[年金納付の延長] 持続的な制度へ熟議を
( 12/29 付 )

 政府は、次期年金制度改革に向け具体的な議論を始めた。保険料を負担し、制度を支える現役世代の急減が差し迫っているためだ。
 国民年金(基礎年金)の保険料納付期間を現行の20歳以上60歳未満の40年間から、65歳になるまでの45年間に延長する案が柱の一つである。
 対策は急務とはいえ、制度の大きな転換であり、国民の不安を招くようなことがあってはならない。持続的な制度設計へ丁寧な議論が必要だ。
 公的年金には全ての人が入る国民年金があり、さらに会社員や公務員は厚生年金が上乗せされる。
 年金は現役世代の保険料で高齢者を支える仕組みのため、少子高齢化で現役が減るほど制度の運営は厳しくなる。2040年には年金を受け取る高齢者の人口がほぼピークとなるのに対し、現役世代は約1400万人減る見通しだ。厚生労働省によると、このままだと国民年金受給水準は40年代半ばに約3割減る。
 現在の国民年金は、40年間納付した場合の満額で月約6万5000円。保険料を負担する期間が5年延びたら、その分増額され、単純計算では月約7万3000円になる。
 加えて政府は、厚生年金財源の一部を国民年金に回す見直しも検討する。厚労省試算によると、自営業者らに加え会社員らの受給額も現在とほぼ同水準を保てる可能性がある。全員共通の基礎年金が分厚くなるためだ。マイナスになるのは一部の高所得世帯に限られるとして理解を求める。
 だが、課題は少なくない。基礎年金は税金で2分の1を賄う。5年延長し受給水準が底上げされればその分、年1兆円余りとされる新たな財源が必要となる。
 岸田政権は防衛費や子ども関連予算を大幅に増額する方針だ。物価上昇などに伴う経済対策にも巨費を投じる。安定財源の確保は不可欠である。消費税増税を巡る論議も避けて通れないだろう。
 厚生年金の加入拡大も論点だ。法人格のない個人事業所のうち現在は加入義務がない飲食業などや、パートといった短時間労働者の加入拡大も議論する。支給が手厚い厚生年金の加入者を増やす利点がある。
 ただ、保険料は労使折半のため、零細も含め幅広い事業主の負担増につながる。理解を得られるかが課題だ。
 政府は25年の通常国会に関連法改正案の提出を目指すが、「45年間加入」の対象となる年齢層については早く示してもらいたい。
 65歳まで働く人が一般的になりつつあるとはいえ、現役世代を増やす努力は欠かせない。少子化対策をはじめ、経済対策や女性の働きやすさなど大局的な観点での検討を求めたい。