[日本の針路] 若者とともに考えよう
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 鹿児島市の鹿児島純心女子短大2年生が昨年書いた作文の一部を紹介したい。
 「新型コロナウイルス禍が若者にキツい試練を与えている。大人はそれをどれほど知っているのか。若い頃は一瞬であるからこそ、はかなくも尊いことを大人が一番知っているはずだ」
 長期化するコロナ禍で学校行事は中止になり、友人と直接会うこともためらわれる。日本も海外と同じように、規制を緩めてほしいと願う。
 別の学生はこう記す。「夜中に繁華街で騒ぐ若者たちを見て『人に迷惑をかけて何が楽しいのか』と、人ごとのように言う大人がいる。街に集まる彼らの境遇や気持ちを考えようともしないで」
 深夜の街に居場所を求めてくるのは家庭や学校で問題を抱えたり、コロナ禍で精神が不安定になった若者たちだ。彼らが犯罪に走る前に手を差し伸べるべきだと訴える。
 二つの作文に共通するのは、大人への強い不信感である。若い世代の立場で今の社会を見つめ、日本、鹿児島の将来を考えてきただろうか。

■努力が報われない

 労働政策研究・研修機構が昨年7月から8月にかけて、全国の20~69歳を対象に実施したネット調査からは、世代によって異なる人生観が垣間見える。
 よい人生を送るために最も重要な条件を聞いたところ、各世代とも「真面目に努力すること」が一番多かった。ただ、60代が57.0%だったのに対し、20代は38.9%で18.1ポイント下回った。
 逆に「親の収入や学歴が高い」「よい教育を受けられる」「人脈やコネに恵まれる」と答えた人は、年齢が低いほど増える傾向がある。
 2021年に「親ガチャ」という言葉が流行した。生まれついた家庭環境が人生を左右するから、諦めざるを得ないと感じている若者が少なくないのかもしれない。
 本来大人が担うべき家事や家族の世話を日常的に行っているヤングケアラーの問題がある。厚生労働省の調査によると小学6年生の6.5%、つまり約15人に1人が、勉強したり友達と遊んだりできず、睡眠も十分に取れないような厳しい家庭環境で生活していることになる。
 真面目に努力しても報われない世の中を変え、明るい将来の展望を描くことは大人、ひいては選良の務めでもある。
 解決すべき課題は山積している。近年地球温暖化が進行、風水害が激甚化し、農業分野への影響も指摘される。国連環境計画(UNEP)は「徐々に経済や社会を変えればよい局面は終わった。根本的な変革をしなければ、気象災害の加速を止められない」と警告した。
 こうした危機的状況に、政府は再生可能エネルギーとともに原発を最大限活用する方針だ。次世代型原発への建て替えや、運転期間60年超への延長を打ち出した。
 岸田文雄首相は「直面するエネルギー危機に対応した政策を加速する」と強調する。経済界からの強い要請もあろう。「依存度の低減」を掲げたこれまでの方針から大きく転換する。
 脱炭素化やエネルギー危機を理由に、国民的な議論が深まらないまま原発回帰に一気にかじを切る。未来世代に対する責任ある判断と言えるだろうか。

■記憶と教訓どこへ

 <蟹の穴ふせぎとめずは高堤(たかづつみ)やがてくゆべき時なからめや>
 カニが出入りするような小さな穴でもふさいでおかないと、高い堤防もいずれ崩れてしまう。島崎藤村「夜明け前」の主人公が明治維新の前途を憂えて詠んだ歌である。今の日本も将来を占う上で岐路に立っていると自覚したい。
 東京電力福島第1原発事故から3月で12年。多くの人が放射性物質におびえ、故郷を追われた。復興の歩みは遅く、福島県内には原則立ち入り禁止の帰還困難区域が依然残る。
 政府は安保関連3文書を閣議決定し反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有を決めた。専守防衛の見直しにつながる大転換で軍拡競争を招く危うさをはらむ。
 西之表市馬毛島では米軍空母艦載機陸上離着陸訓練(FCLP)移転と自衛隊基地整備計画の手続きが急ピッチで進む。九州電力は川内原発の運転延長を申請した。原発事故の記憶と、先の大戦の教訓をないがしろにしかねない動きは足元にまで及んでいる。
 「世間虚仮(こけ)」。人が価値あるものと思っている金や権力は、むなしく仮のものであり、たとえ手に入れたとしても心の平穏は得られないと解されよう。聖徳太子の言葉として伝わる。
 原発や核兵器に価値を求めることにも当てはまるのではないか。痛恨の歴史を繰り返してきた人の営みへの警句を胸に、次代を担う若者と日本の針路について考える一年にしたい。