[政治・経済展望] 政策に国民の声反映を
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 誤算という言葉がふさわしい。
 岸田文雄首相は昨夏の参院選で自民党を大勝させ、2025年夏の参院選まで「黄金の3年間」を手に入れたはずだった。
 ところが急激な円安や物価高、新型コロナウイルス感染症対策に追われる中、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)、安倍晋三元首相の国葬を巡る問題でつまずいた。「政治とカネ」も政権を揺さぶった。
 秋以降、4閣僚が相次ぎ辞任に追い込まれる異常事態となり、さらには政治資金収支報告書の過少記載が発覚した自民の薗浦健太郎衆院議員、差別的な発言が不適切だと国会で批判された杉田水脈総務政務官が更迭された。
 首相は今月下旬召集の通常国会で新年度予算案を早期成立させ、政策実現に向けて求心力回復を図りたいところだろうが、ダメージは相当に深刻だ。
 昨年11月と12月の共同通信世論調査で岸田内閣の支持率はいずれも33.1%と、発足以来最低だった。春には統一地方選を控え、衆院の補欠選挙も想定される。苦戦すれば首相の立場は危うくなる。
 政権運営は予断を許さず、解散含みの展開も予想される。

財源論議は先送り

 岸田政権の前にはいくつものハードルが待ち構える。
 一つが、安全保障政策に関わる財源をどう捻出するかだ。
 「防衛元年」と位置づける23年度当初予算案には、前年度を1兆4000億円も上回る6兆8000億円の防衛費を計上。27年度まで5年間の総額を約43兆円とする計画で、上積み総額は17兆円程度とみられる。その一部を増税で賄う方針だが、実施時期の決定は年を越した。
 これに対し、自民内の増税反対派は巻き返しを図ろうとしている。着地は容易でないだろう。首相は昨年末、増税前に衆院解散・総選挙に踏み切る見通しさえ示した。
 もう一つのハードルが、原発政策だ。
 エネルギー危機、気候変動危機を背景に、運転期間延長や建て替えを決めた。ただ、脱炭素への道筋は不確かで、核のごみの行き先も見えない。通常国会へ原子炉等規制法の改正案提出を目指すものの、与野党対決法案になるのは避けられまい。
 国の将来を左右する重要な政策課題としては、社会保障分野も気がかりだ。
 急速な高齢化が進み、医療、年金、介護の制度維持に必要な費用が膨らんでいくのは間違いない。政府は「全世代型社会保障」を掲げ、給付と負担の見直しへ、高齢者に応能負担を求める。併せて、子育てや若者への支援強化を柱に据える。
 4月には子ども施策の司令塔「こども家庭庁」が発足する。だが23年度当初予算案は、防衛費増額を優先させた結果、子ども予算への資金配分が後回しになった。首相が表明した「倍増」の実現性は、夏の経済財政運営指針「骨太方針」まで、不透明なままとなりそうだ。
 一方で、歳出改革は表立った動きがなく、財政再建の機運が高まっていない現状には、危機感を強めざるを得ない。
 新型コロナウイルスの感染法上の位置付けを、季節性インフルエンザと同等の「5類」に引き下げる検討が始まった。医療費の無料体制は継続の見通しで、国費投入は続くとみられる。安保強化と、暮らしを支える他分野の予算のバランスについて、多角的に議論を深める必要がある。

春闘の結果に注目

 新型コロナ禍で停滞した景気の先行きも見通せない。
 インバウンド(訪日客)復活が期待されていた中国がコロナの爆発的増加に見舞われ、日本は水際対策を緊急強化。往来の正常化は先延ばしとなった。
 ウクライナ危機に端を発する原材料価格高騰や円安による食品、日用品の値上げはおおむね一服したとの見方もある。だがインフレ対策で利上げを重ねた米欧の経済が減速し、日本に波及する恐れは否定できない。負の材料を乗り切るには賃上げが鍵を握る。
 労働組合の全国組織、連合は春闘で5%程度の賃上げを求める方針だ。28年ぶりの高い水準で経営側に対応を迫る。「物価高に負けない賃上げ」にどれだけ迫れるか注目したい。
 日銀の金融政策も引き続き関心事だ。「異次元緩和」を10年近く続けてきた黒田東彦総裁が4月に任期満了を迎える。岸田政権は交代を機に、政府と日銀の役割を定めた共同声明を改定する方針だ。物価目標をどのように位置付け、出口戦略につなげるか。首相と次期総裁は、投資家の反応を予測しながら難しい検討を迫られる。
 多くの課題が安倍元首相の残した「宿題」とはいえ、政策決定に至る過程は拙速に過ぎる。国会での熟議を通して、国民の理解を得ることが不可欠だ。