[生物多様性目標] 実効性の確保が課題だ
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 カナダで開かれた国連生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)は、世界の陸と海の少なくとも30%を保全することなど、2030年までの新たな生態系保全目標を採択した。
 23項目の個別目標からなり、発展途上国を支援するため、生物多様性に特化した基金の創設も明示した。気候変動や開発などで多様性が急速に失われる現状を止め、回復を目指す意義は大きい。
 各国に取り組み状況の報告が求められる一方、達成できなくても罰則はない。着実に進めていけるか、実効性の確保が鍵となる。
 生物多様性の損失は年々深刻化。受粉を担うハチやチョウなどの減少に伴い、年間の作物生産額に最大5770億ドル相当の損失リスクが発生するとされる。社会や経済に及ぼす影響は大きく、対応は待ったなしといえよう。
 新目標は10年に名古屋市で採択された「愛知目標」の後継となる。
 生態系保全の資金を官民で2000億ドル(約27兆円)確保し、先進国から途上国へ25年に200億ドル、30年に300億ドルを投じることや、「外来種の侵入速度を50%減らす」などの数値目標を掲げた。
 20年が期限だった愛知目標は、20項目中14項目が未達成と評価された。途中段階で進捗(しんちょく)状況に目を注ぐ仕組みがなかった点が大きな要因だ。
 このため今回の合意には、各国が国内対策の計画を策定し、取り組みを報告して世界全体の進み具合を評価することを盛り込んだ。強制力も罰則もないが、日本も先進国の一員として積極的に行動する責務がある。
 ビジネス関連の項目では、企業活動による生物多様性への影響を評価し、開示させると明記した。だが、こちらも日本などの反発で義務化は求めなかった。
 多様性保全にかかわる情報を開示することは、結果として日本企業の国際的な競争力につながるはずだ。政府は企業の活動を後押ししてもらいたい。
 豊かな自然を有する地方自治体の役割にも注目したい。
 会期中のイベントにも登壇した新潟県佐渡市は昨年10月、生物多様性の損失を止めて回復軌道に乗せる「ネーチャーポジティブ」宣言をした。佐渡は一度絶滅した日本産トキの人工繁殖と野生復帰に取り組み、今では560羽以上に増やした。無農薬、低農薬の稲作などを通じて、トキが暮らせる環境づくりに多くの島民が協力している。
 佐渡などの成功事例を広く公開し、市町村レベルでも、各地の自然環境の特色に合わせた地域戦略を立案し、行動することが求められる。
 COP15の新たな目標採択を、生物多様性問題への国民の関心を高める契機としなければならない。