[高齢者労災多発] 安心して働ける職場に
( 1/11 付 )

 高齢者の労働災害が多発している。
 厚生労働省のまとめによると、2021年に死亡や休業4日以上となった労災のうち、60歳以上は約26%を占める3万8574人。前年と比べて10.4%増、17年比で28.5%増だった。
 背景には、働く高齢者の増加がある。21年の65歳以上就業者は前年比6万人増の909万人(総務省労働力調査)に達し、18年連続で過去最多を更新した。65~69歳に限れば2人に1人が働いている計算だ。
 少子高齢化で活躍の場が広がる一方、生活のために働かざるを得ない人もいる。シニア世代を取り巻く労働環境の整備を急ぎたい。
 人口のおよそ3人に1人が65歳以上の鹿児島県は、21年の労災死傷者に占める60歳以上の割合が約31%と、全国平均を上回った。より身近な問題と捉えて取り組む必要がある。
 高齢者の労災原因では、転倒や墜落・転落が多い。清掃の仕事中に階段から落ち、複数箇所を骨折する重傷を負った事例も挙がっている。
 同じ被災でも、若年者より程度が重くなる傾向があるのは否めまい。まずは本人が身体機能の変化によって労働災害につながるリスクを十分理解しなければならない。
 その上で、安心して安全に働ける職場にするには、どうするか。
 厚労省はエイジフレンドリーガイドライン(高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン)を策定し、照度の確保や、段差解消などの具体策を事業者に求める。高齢者の特性を考慮し、危険な場所や負担の大きい作業をなくしていけば、女性を含む誰もが働きやすい職場につながるはずだ。
 見過ごせないのは、労災認定が一部に過ぎない点だ。労働組合「労災ユニオン」(東京)は「企業の『労災隠し』で泣き寝入りしている高齢者も多い」とする。60歳以上は立場の弱い非正規が大半で、体調が悪くても雇用を切られまいと我慢する人もいるという。相談窓口を充実させる対策が重要だ。
 健康寿命が延び、意欲と能力があれば年齢に関係なく働く機運が醸成されてきた。21年施行の改正高年齢者雇用安定法が70歳までの就業機会の確保を、企業の努力義務としたことも後押しする。ただ、シニア世代に「なぜ働くのか」を尋ねた複数の調査で「経済上の理由」や「生活の糧を得るため」との回答が最多なのが気にかかる。
 国民年金の22年度支給額は満額でも月額約6万4800円。物価高の中、経済的な厳しさがのしかかる世帯は多い。70代、80代の親が40、50代の子どもを養うケースも増え、年金だけでは足りない、などの声が聞かれるという。高齢者が無理なく貢献できる社会を目指し、国はセーフティーネットの充実にも配慮を怠ってはならない。