[馬毛島基地着工] 安全な暮らし守れるか
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 防衛省は西之表市馬毛島への米軍空母艦載機陸上離着陸訓練(FCLP)移転を伴う自衛隊基地整備に向けた本体工事に着手した。
 日米両政府の外務、防衛担当閣僚による日米安全保障協議委員会(2プラス2)は2011年6月、共同文書にFCLPの移転候補地として馬毛島を明記した。それから11年余、日本を取り巻く安全保障環境が厳しさを増す中、大きな節目を迎えたと言える。
 工期は4年程度が見込まれ、滑走路などを先行して造成し、早ければ25年度にFCLPが始まる可能性がある。
 ただ、将来的な軍事拠点化や訓練に伴う騒音に対する市民の不安は依然として根強い。西之表市の八板俊輔市長も基地工事への賛否を明確にしていない。
 防衛省は地元への丁寧な説明が重要と強調してきたにもかかわらず、強引に事を進め、着々と外堀を埋めてきた。住民の理解を得たとは言えまい。
 国は地元住民の懸念の払拭(ふっしょく)に努めるとともに、安全・安心な暮らしを守る責務を果たしていかなければならない。

■際立った国の強行
 西之表市の西12キロにある馬毛島は、無人島になった1980(昭和55)年以降、さまざまな開発計画が持ち上がった。石油備蓄基地や使用済み核燃料中間貯蔵施設のほか、日本版スペースシャトル「HOPE」の着陸候補地にも挙がったが、いずれも立ち消えになった。
 2007年にFCLP移設案が表面化したが、11年の2プラス2の共同文書でにわかに注目を集める。文書は南西諸島の防衛力強化のため新たに自衛隊施設を整備し、併せてFCLPの恒久的な施設として使用するとした。
 これに対し種子島・屋久島4市町は白紙撤回を求め、国と地権者の交渉も難航。17年の西之表市長選では計画反対を掲げた八板氏が初当選し、計画に反対する民意が明確に示された。
 だが、国は19年に馬毛島を買収することで地権者と合意し訓練移転に大きく動きだす。自衛隊基地の施設配備案を公表、21年には環境影響評価(アセス)手続き中にもかかわらず、仮設プラントを発注するなど既成事実化する手法が目立った。
 昨年はさらに攻勢を強めた。「候補地」の位置付けだった馬毛島を、1月の2プラス2で地元に説明のないまま「整備地」に決定した。一方で米軍再編交付金の規模を非公式に地元関係者へ伝え、揺さぶりをかけた。
 八板市長は島に残る市有地を売却し、再編交付金の対象に指定されるなど協力姿勢を強め、塩田康一知事も県議会で「理解せざるを得ない」と容認する考えを表明した。
 国の強引な戦略が「基地建設やむなし」という空気を醸成してきたのではないか。だが、アセスの最終まとめとなる「評価書」にも、住民が心配する種子島上空を飛んだ際の騒音予測や具体的な対策は「緊急時を除き飛ばない」として盛り込んでいない。
 さらに、米軍への要請については「飛行経路の順守をその都度申し入れるなどの措置を講じる」との文言を加えたが、実効性があるのか疑問だ。
 「地元の理解を得る」と繰り返しながら、整備ありきで地元の頭越しに手続きを進めた国の姿勢は県民に不信感を生んだ。今後もさまざまな疑念を晴らしていくことが欠かせない。

■リスクは本土にも
 政府は反撃能力(敵基地攻撃能力)保有や長射程ミサイル増強など防衛力強化を打ち出し、自衛隊と米軍の一体化も進む。
 鹿屋市では海上自衛隊鹿屋航空基地で一時展開する米空軍無人偵察機MQ9の運用部隊が発足し、県内初の米軍駐留が本格的に始まった。奄美大島や徳之島などでは自衛隊と米軍が最大規模の実戦的訓練を実施した。
 先月閣議決定された「国家安全保障戦略」は、中国を国際秩序への「最大の戦略的な挑戦」と位置付け、台湾有事にも言及した。中国艦船が屋久島の南などにも度々侵入し、緊張が高まっている。安保環境悪化の中で米軍と共同で使用する馬毛島を含め、鹿児島は防衛の最前線としての役割を担うことになる。
 有事の際、どう対処するのか。県は他国からの武力攻撃を想定して屋久島の住民を本土に避難させる図上訓練を計画する。また、「緊急一時避難施設」として鹿児島市と姶良市の地下施設などを指定している。
 リスクは南西諸島に限らず本土でも高まるに違いない。県民が広く情報を共有することが今後求められるが、同時に、リスクを回避し平和を維持する方策を模索しなければならない。
 政府の防衛力強化の方針を巡っては23日に開会する国会で議論されよう。馬毛島での基地建設が始まったのを機に、望ましい防衛力整備の在り方について考えていきたい。