[安倍氏銃撃起訴] 動機と背景 徹底解明を
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 安倍晋三元首相銃撃事件で奈良地検はきのう、殺人と銃刀法違反の罪で山上徹也容疑者を起訴した。
 母親が入信した世界平和統一家庭連合(旧統一教会)に恨みを抱いていたとされるが、詳細な動機は明らかになっていない。裁判員裁判となる見通しの法廷で審理を尽くし、事件の背景を解明してもらいたい。
 起訴状などによると、山上被告は昨年7月8日午前11時半ごろ、奈良市で参院選の街頭演説中だった安倍氏を銃撃し殺害したとしている。奈良地検は約半年間の鑑定留置で事件当時の精神状態を調べた結果、刑事責任能力を問えると判断した。
 多くの聴衆がいる中での銃撃という前代未聞の事件が浮き彫りにしたのは、教団と政治の関係だった。
 捜査関係者などによると、被告の母親は1991年ごろ教団に入信し、総額約1億円を献金。被告は「多額の寄付で家庭が崩壊した。(韓国から教団を)招き入れたのが岸信介元首相。だから(孫の)安倍氏を殺した」と供述している。
 安倍氏を「現実世界で最も影響力のある統一教会シンパの一人」と捉えていたとみられるが、強い殺意を抱くようになった経緯など公判での焦点の一つだろう。
 奈良県警は現場や被告宅から複数の手製銃や火薬を押収。自作したと供述している銃をどのようにして作ったのか。その過程を検証し、再発防止につなげるべきだ。
 事件をきっかけに不当な寄付勧誘を規制する被害者救済法が一部規定を除き施行された。文化庁は解散命令請求を視野に宗教法人法に基づく質問権行使を進める。
 被害者救済の道は開いてきたとはいえ、被告のような「宗教2世」が抱える孤独と困窮の問題も明るみに出た。裁判を通して見えてくる課題を今後の対策に生かしていく必要がある。
 一方、教団と自民党議員らとの関わりについて、本格的な調査は放置されたままだ。
 教団の関連団体のうち国際勝共連合は反共産主義を掲げ、岸元首相が賛同した経緯から自民との関係がつながってきたとみられる。安倍派が最も関係が深かったと指摘されている。
 自民が昨年9月にまとめた調査は自己申告で、「お手盛り」との批判が根強い。だが岸田文雄首相は安倍氏の調査について、本人が亡くなったことを理由に否定的だ。また、教団側が地方政治にも浸透している実態も判明してきた。
 教団と政治の関わりを曖昧のまま終わらせてはならない。国会が主体となって教団との密接な関係が政策決定に影響しなかったのかについても追及すべきである。