[日米首脳会談] 緊張緩和へ協力深化を
( 1/15 付 )

 岸田文雄首相とバイデン米大統領がホワイトハウスで会談し、両首脳は日本の防衛力強化を踏まえた日米同盟の深化を表明した。
 力による勢力拡大を図る中国や、ウクライナ侵攻を続けるロシアへの対抗姿勢を鮮明にし、5月の先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)を前に結束を図った。
 ただ、対決の構造をあおるだけでは大国間の分断を深刻化させるばかりである。両首脳は緊張緩和や国際社会の安定に向けたリーダーシップを発揮するべきだ。
 首相は昨年12月に閣議決定した「国家安全保障戦略」を基に、防衛力強化や防衛費増額の方針を説明。バイデン氏は「歴史的だ」と歓迎し、「日本の防衛に関する責務を完全に果たす」と強調した。
 昨年5月、首相はバイデン氏との会談で、防衛力の抜本的強化と防衛費の増額を約束しており、「有言実行」を示した形だ。だが、国内議論は生煮えのままで、増額分の財源についても法人税などの増税方針を決めたものの、実施時期の判断は先送りした。実現には課題が残ると言わざるを得ない。
 防衛力強化の柱となる反撃能力(敵基地攻撃能力)について会談では、効果的な運用での協力などで一致。首相は反撃能力に用いる米国製巡航ミサイル「トマホーク」の導入を伝えた。
 首脳会談に先立って行われた外務・防衛担当閣僚による安全保障協議委員会(2プラス2)では日米双方が「同盟の役割と任務を進化させる作業の加速」で一致した。反撃能力の効果的な運用に向けて、相手国の情報収集や攻撃目標の設定に関する協力を想定。共同文書には、南西諸島の施設の共同使用を拡大することなども明記する。米軍の戦略下で自衛隊が活動する構図が鮮明になったといえよう。
 他国領域のミサイル基地などを破壊する反撃能力の保有は憲法9条に基づく「専守防衛」を形骸化させるとも指摘される。国会論議の前に米国との間で既成事実化する手法は国内軽視と言われても仕方あるまい。
 首脳会談の共同声明では半導体を含む技術の保護、宇宙や原子力エネルギーの分野で両国の優位性を確保することも確認した。
 経済安保の重要性は理解するが、米国に次ぐ経済力を背景に影響力を広げる中国と全面的に対峙(たいじ)すれば「経済のブロック化」が進行しかねない。
 国家安全保障戦略は、わが国が優先する戦略的アプローチの第一に「外交力」を挙げ、中国についても「信頼醸成のため、安全保障面における意思疎通を強化する」と記す。
 岸田政権には、一定の抑止力を維持しながらも、緊張緩和に向けた主体的な外交努力を求めたい。