[経団連春闘指針] 中小企業の賃上げ鍵に
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 経団連は春闘の経営側指針となる「経営労働政策特別委員会(経労委)報告」を発表した。
 物価高の現状を重視して賃上げを強化し、ベースアップ(ベア)を前向きに考えるよう会員企業に要請。ベアの機運を醸成するには中小企業の賃金引き上げと環境整備が必要と指摘した。
 労使ともに物価高に危機感を抱いているのは確かだろう。物価の上昇分を埋める賃金確保に努めるとともに、中小企業対策では取引条件の改善と適正な価格転嫁を図らなければならない。
 経労委報告は「企業の社会的責務」として、賃上げのモメンタム(勢い)の維持・強化に向けた積極的な対応を呼びかけると強調。大企業と下請け企業などの取引を想定し、中小企業がコスト上昇分を価格に反映しやすくすることを目指す。
 若い社員や子育て世代、有期雇用社員などへの重点配分が考えられるとも訴えた。物価高騰の影響を強く受けるこうした労働者の処遇改善は不可欠である。
 厚生労働省が発表した昨年11月の物価上昇を加味した実質賃金は、前年同月比3.8%減で8年6カ月ぶりの下落率になった。物価高に賃金が追いついていない状況は深刻だ。
 労組の全国組織・連合は定期昇給分も合わせて5%引き上げを求め、政府も後押しする。物価上昇分を吸収できる賃上げが実現すれば、物価高に対する消費への影響は軽減される。さらに長年続いた低賃金の連鎖を打ち切る契機にもなり得るだろう。
 昨年来、ロシアによるウクライナ侵攻で資源価格が軒並み高騰し、円安が物価上昇に追い打ちをかけた。
 エネルギーや食料などの多くを輸入に頼る日本にとって影響は大きい。原材料高などが業績の逆風となっている企業は、固定費の増加につながる賃上げには慎重にならざるを得まい。
 だが、企業の規模を問わず幅広い業種での賃上げができなければ、消費は落ち込み、企業の経営は一層厳しくなりかねない。
 大企業は取引先が安心して賃上げを実施できるよう、取引価格の適正化に誠実に対応する責任がある。中小企業側も引き続き生産性向上などに取り組んでもらいたい。
 賃金が上がって購買意欲が高まり、企業のもうけも増え、さらに賃金が上昇して消費が増えるという好循環になることが理想だ。今春闘はそれを生み出す転機にすべきである。
 来年以降の賃上げへの基盤を整えることも課題となる。底堅い経済成長につなげるため、産業や企業の新陳代謝と、成長分野への円滑な労働移動を促す雇用制度が求められる。政府の役割も重要だ。政労使一体の取り組みが欠かせない。