[「東電」再び無罪] 組織罰の導入急ぎたい
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 東京電力福島第1原発事故を巡り、業務上過失致死傷罪で強制起訴された東電の勝俣恒久元会長ら旧経営陣3人の控訴審で、東京高裁は一審に続き、いずれも無罪を言い渡した。
 巨大津波の予見可能性はなく、事故回避のため事前に運転を停止すべき注意義務も認められないとの一審の判断をほぼ支持した。
 ただ、福島県では事故から12年近くたった今も、2万7000人余りが県内外で避難生活を送る。多くの人生を狂わせた責任が東電にあるのは間違いない。企業自体にペナルティーを科す「組織罰」の導入など検討すべきである。
 争点の一つだった事故の回避について、指定弁護士側は「防潮堤建設や主要設備の津波対策工事をしていれば回避できた」と被告の落ち度を指摘。これに対し判決は「事後的に得られた情報や知見を前提にしており採用できない」と一蹴したが、もう少し踏み込んで言及すべきではなかったか。
 昨年7月の株主代表訴訟判決で東京地裁は、津波は予見できたとし「対策工事をしていれば事故を避けられた可能性が十分あった」と結論付け、旧経営陣に賠償を命じた。司法判断が割れる中、高裁には事後の知見を前提にした「後知恵」と片付けず、対策工事の有効性など提示してほしかった。
 強制起訴制度を見直すべきだとの意見もある。無罪の人が長期間、被告の立場に置かれるからだ。
 だが今回の裁判では、津波対策を経済的な理由から怠ったとも受け取れる地震対策担当者の供述調書の存在が明らかになった。東電の津波への対応が適切だったかどうかが法廷で議論された意味は大きい。
 刑事責任を追及するハードルの高さも改めて示された。
 株主代表訴訟のような民事裁判に比べ、刑事裁判は「無罪推定の原則」があり、「合理的な疑いを挟む余地がない」厳密な有罪立証が求められる。特に東電のような大きな組織では権限が社内で分散化され、個人の過失責任を問うのは難しいとされる。
 例えば、尼崎JR脱線事故ではJR西日本の元社長らの無罪が確定した。中央自動車道の笹子トンネルの天井板崩落事故は当時の中日本高速道路社長らが書類送検されたが起訴に至らず、刑事裁判は開かれなかった。
 両事故の遺族らは「組織罰を実現する会」を結成、安全管理が不十分で重大事故が起きた場合、業務上過失致死罪の両罰規定として企業など組織に罰金を科す特別法の導入を訴えている。
 巨額の罰金刑を避けるため、企業が安全対策に一層力を入れるようになることが期待される。一方、個人が責任追及を免れる逃げ道になりかねないとも指摘される。慎重に議論を重ね、立法化を急がなければならない。