[ストーカー規制] いかに実効性高めるか
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 福岡市のJR博多駅近くで会社員女性が刺殺された事件で、元交際相手が殺人の疑いで逮捕された。容疑者にはストーカー規制法に基づく禁止命令が出されており、一方的に恨みを募らせたとみられる。
 女性は、容疑者に別れを告げた後も待ち伏せや付きまといをされたとして昨年10月以降、福岡県警に複数回相談していた。最悪の事態になったことは残念でならない。
 ストーカー規制法は2000年の施行以降も対象行為の拡大や罰則の引き上げなど改正を繰り返してきた。だが、被害は防ぎ切れていない。法の実効性を高めると同時に、加害者の心理的治療にも取り組むことが求められる。
 女性から相談を受けた県警は、容疑者に警告。女性に緊急通報装置を貸与し、自宅周辺のパトロールを強化していた。事件直前の今月6日に電話で状況を確認していたという。
 県警の対応は十分だったのか。今後のためにも検証が必要だ。
 県警は女性に引っ越しなど避難も促していた。しかし、被害者の負担は大きく「自衛に頼る現行法には限界がある」との指摘もある。禁止命令の効果を高めるため、監視体制の強化なども検討していくべきではないか。
 規制法は、1999年に埼玉県桶川市で大学生の猪野詩織さんが元交際相手らのグループによるストーカー行為の末に殺害された事件を機にできた。
 その後、「執拗(しつよう)なメールの送信」や「会員制交流サイト(SNS)上でのメッセージの連続送信」を対象に加え、2021年には衛星利用測位システム(GPS)機器や居場所が分かるスマートフォンアプリを悪用した行為も規制した。
 それでもストーカーの相談は絶えない。警察庁によると、21年に全国の警察に寄せられた相談は約2万件で、禁止命令等は過去最多の1671件に上る。鹿児島県内では新規相談が342件、継続分を含めると6000件近い。
 新たな被害を生まないためには、加害者への対応も欠かせない。
 全国の警察は16年から加害者に医療機関での治療を働き掛けている。加害者の同意を得た上で精神科医やカウンセラーに経緯を説明し、診察が必要と判断されれば治療やカウンセリングに結びつける。
 加害者は「自分こそ被害者」と過度に思い込む傾向がある。カウンセラーと対話し、思考の偏りや行動パターンを修正することで怒りが落ち着くという。一定の抑止効果が期待できよう。
 働き掛けに強制力はなく、費用が原則自己負担になるなど課題もある。いかに受診につなげるかが鍵だ。
 犯罪への厳正な対応と加害者への医学的アプローチの両輪で、ストーカー被害の防止につなげたい。