[通常国会召集] 問われる首相の「語る力」
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 通常国会がきのう召集され、岸田文雄首相が施政方針演説を行った。
 急速に進展する少子化に言及し、子ども・子育て政策を最重要視。出生率の反転に向けた「次元の異なる少子化対策の実現」を打ち出した。ただ想定される児童手当拡充などの財源には具体的に触れず、今後の検討と述べるにとどめた。
 ほかにも岸田政権が昨年末、国会論戦を経ずに決めた防衛、原発の政策転換など日本の針路を占う重要なテーマがめじろ押しだ。首相は国民が納得できるよう、丁寧に説明しなければならない。問われるのは「語る力」だ。
 昨年の出生数が80万人を割り込むと見込まれる中、岸田首相は子ども・子育て政策を「最も有効な未来への投資」と力説した。「子どもファーストの経済社会」といった表現もあった。
 掲げる少子化対策の柱の一つが、児童手当拡充だ。試算作業によると、第2子以降の支給額を増やす場合、新たに確保すべき予算は2兆~3兆円程度に上る可能性が出てきた。多子世帯への加算だけではなく、所得制限の撤廃や、支給対象年齢の引き上げ(現行は中学生まで)も視野に入る。
 演説で首相は、経済財政運営指針「骨太方針」を策定する6月までに、将来的な子ども・子育て予算倍増に向けた大枠を示すとした。これまでの繰り返しの域を出なかったのは残念だ。
 児童手当の財源としては増税や公的保険料への上乗せ、企業の拠出金が取り沙汰されている。予算の裏付けがないままでは国会論戦は空洞化しかねない。負担増に対する理解を深めるためにも、たたき台の提示を望む。
 防衛政策と原子力政策は、いずれも昨年12月、国会閉会中に政府、与党内の協議で重大な変更がなされた。
 2023年度から5年間で約43兆円を注ぎ込む防衛力整備計画と、その財源確保のための増税や、原発の最大限の活用について、既成事実化を図るのは受け入れられない。重要政策で国民の判断が問われる局面の今、論戦の上で見直すべきは柔軟に見直すべきだ。
 新年度当初予算案は11年連続で最多を更新している。物価上昇を超える賃上げは実現できるのか。新型コロナウイルスの感染法上の位置付けを5類に引き下げることに伴う医療体制見直し、旧統一教会問題を巡る被害者救済法の着実な運用、東京電力福島第1原発事故からの福島県の復興…と課題は山積みである。
 野党には説得力ある質疑を展開してほしい。立憲民主党は日本維新の会との共闘を続ける。防衛費増額に伴う増税方針に強く反対し、撤回を求めていく方針だ。
 4月には統一地方選や衆院補欠選挙がある。対立軸を明確にし、有権者に判断材料を示してもらいたい。