[ネット有害情報] 監視強化で事件防止を
( 1/28 付 )

 警察庁は「爆発物・銃器の製造」「殺人や強盗」などをうかがわせるインターネット上の文言について、3月から「有害情報」として削除を依頼する方針を明らかにした。
 安倍晋三元首相銃撃事件では、被告がネット情報で銃を自作したと説明したほか、各地で相次ぐ強盗事件の容疑者らは交流サイト(SNS)でやりとりをしていたとみられる。監視体制の強化で事件を未然に防ぐ狙いだ。
 ただ、削除依頼に強制力はない。国による違法性の判断の違いから、海外のプロバイダー(接続業者)の場合は削除要請に応じないこともあるという。実効性を高めるための知恵を絞る必要がある。
 警察庁は通報を受け付ける民間団体「インターネット・ホットラインセンター」(IHC)に業務を委託。IHCは「薬物取引」「児童ポルノや売春」などの違法情報と、その他の有害情報に分けて対応し、警察に連絡したり、サイト管理者や接続業者に書き込みの削除を依頼したりしている。
 現在、有害情報は「自殺の誘引」だけだが、銃器製造や殺人・強盗のほか「臓器、人身売買」「ストーカー行為」など計7類型を対象に追加する。いずれも生命に危険が及ぶ恐れが高い犯罪に関連しており、抑止につながることが期待される。
 14都府県で少なくとも計20件が発生し、逮捕者が30人を超えた広域強盗事件は、実行役の大半がネット上の「闇バイト」に応募して集まったという。
 携帯電話の解析で、指示役は匿名性の高い通信アプリ「テレグラム」を通じてフィリピンからメッセージを出していたようだ。若者らが簡単に闇バイトに応じる現状は危うい。
 事件では「タタキ(強盗の隠語)の仕事」と説明を受けていたとみられることから、「タタキ募集」などの表現や、前後の文脈で強盗の勧誘と判断できるものも削除依頼の対象となる。
 SNSが爆発的に普及する中で、対応しきれるのか、という懸念もある。
 IHCが2021年に受理した通報は40万件を超える。有害情報である「自殺誘引」は2611件で、このうち、2199件について接続業者などに対応を依頼し、削除されたのは約4割だった。
 IHCに情報を寄せる民間団体「サイバーパトロールセンター」は、投稿の文脈から犯罪との関連性を分析する人工知能(AI)も導入する方針だ。いかに情報を適切にすくい上げ、犯罪の芽を摘むかが課題といえよう。
 国主導でネット上にあふれる危険な情報を国民に周知し、不安を払拭(ふっしょく)することが求められる。日常に不可欠な道具でもあることから、適切な利用法を家庭や学校で子どもたちに伝える情報モラル教育にも努めてもらいたい。