[電力不正閲覧] 許されぬ法令順守欠如
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 大手電力6社が競合関係にある新電力の顧客情報を不正に閲覧していたことが明らかになった。小売り部門の社員が、送配電子会社のシステムなどを通じて見ていたという。
 電気事業法は、送配電子会社が持つ新電力の顧客情報を、親会社の大手電力と共有することを禁じる。漏えいは事業者間の公正な競争を揺るがす。法令順守に対する意識の低さは到底許されるものではない。
 2016年の電力小売り全面自由化後、大手は送配電部門を分社化し、新規参入の新電力も、その送配電網を公平な条件で使えるようにした。
 不正閲覧はそのルールを破るものだ。昨年末、まず関西電力で発覚する。
 営業担当社員らが子会社の関西電力送配電のシステムを通じ、新電力と契約している一般家庭の契約者氏名や電話番号を入手。新電力から関電に切り替える顧客対応に活用したほか、使用料が多い家庭を訪問し、オール電化への転換を提案するなどの営業活動にも悪用していたとされる。
 電事法に抵触するかもしれないことを対象社員の約4割が認識していたが、業務効率を優先するため閲覧を続けた。「盗み見」で顧客を失った可能性のある新電力事業者から、怒りの声が上がるのは当然だろう。
 経済産業省は他の大手9社にも緊急点検を求めた。報告を締め切った27日までに、東北、四国、九州、中部、中国の各電力でも同様の行為があったことが相次ぎ判明した。
 九州電力は、九州電力送配電が管理し、災害時の停電対応などで活用するシステムが閲覧可能だった。鹿児島県内の新電力契約者の情報も含まれているとみられる。災害時のみ利用できる決まりだったが、20年1月ごろから通常時も九電社員が閲覧していた。
 各社の不正閲覧問題について電気事業連合会の池辺和弘会長(九電社長)は会見で「(電力)自由化の根本に関わる問題」と話した。全面自由化は市場への異業種の参入を促し、業界の競争や料金引き下げを促す狙いがあった。原点に改めて立ち戻るべきだ。
 電力市場を監視する立場にある経産省の電力・ガス取引監視等委員会のチェック体制は万全だったか。再発防止に向けて見直す必要がある。
 事業者向け販売では、今回の不正閲覧が明るみに出た大手のうち4社(関西、中部、中国、九州)によるカルテルの可能性も浮上。互いのエリアでの営業を控え、価格維持を図ったとして独禁法違反の疑いが持たれている。
 大手電力7社が燃料価格高騰によるコスト増を受け、電気料金値上げを申請した。原発再稼働も視野に入れる。公共性の高い企業として襟を正さなければ、業界への不信感は払拭できないことを肝に銘じたい。