[年収の壁] 「働き損」解消が急務だ
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 岸田文雄首相は衆院予算委員会で、被扶養者のパート従業員らが働く時間を抑える「年収の壁」問題の解消に向けて制度を見直す意向を表明した。
 先月の施政方針演説でも、女性登用の一層の拡大を進めるとして見直しに言及。少子化で不足が見込まれる働き手を確保する狙いもある。
 被扶養者の年収が一定額を超えると税や社会保険料の負担が生じる。そのため、「就業調整」をしている人は少なくない。働く意欲を損なわせる制度の改善を急ぐべきだ。
 現行ではパートで働く人の年収が企業規模によって130万円または106万円以上になると、社会保険料を負担する必要がある。150万円を超えると、所得税の配偶者特別控除を満額受けられなくなる。103万円を境に多くの企業で配偶者手当がなくなる。
 こうした「壁」を超えて働けば、手取りが減る事態が生じかねない。いわば「働き損」を避けるため、勤務時間を抑えるので所得の増加や労働人口の拡大につながらない。女性の社会進出を妨げる一因にもなっているとして長年の課題になっている。
 野村総合研究所が昨年9月に実施したアンケートでも年収の壁が働き方に大きく影響している実態が明らかになった。パートやアルバイトの既婚女性約3000人のうち、約6割が就業調整をしていると回答した。
 さらに、そう答えた人に「年収が一定額を超えても手取りが減らなくなった場合、今よりも働きたいか」と聞くと、8割近くが「とても思う」「まあ思う」と回答した。労働意欲は潜在的に高いことがうかがえる。
 新型コロナ禍で人手不足は深刻さを増している。帝国データバンクが昨年10月に実施した調査では、回答した企業の5割強が人手不足を訴え、特にパート労働者が多い飲食業や宿泊業では7割を超えた。
 また、政府が経済界に要望している賃上げが進めば、パートなどで働く人が「壁」を考慮して勤務時間を抑えることが予想され、労働力の減少を懸念する声も上がっている。
 長く働きたい人が年収を気にせずに働き、企業の人手不足解消にもつなげるのは難題とはいえ、現行制度の弊害を克服する制度設計はもはや先送りできまい。
 見直しには社会保障制度や税制の改革が必要とされ、労使双方に新たな負担が発生すると見込まれている。働き損解消に保険料負担や手取りの減少分を一時的に補助し、その間に抜本改革を進めるべきだとの意見もある。
 政府は昨年6月、女性活躍推進策をまとめた重点方針(女性版骨太の方針)を決定。時代に合わなくなった制度や意識改革の必要性を明確にした。本腰を入れて取り組んでもらいたい。