[秘書官差別発言] 政権の人権感覚を疑う
( 2/7 付 )

 岸田文雄首相の秘書官の荒井勝喜氏が、LGBTなど性的少数者や同性婚を巡り、記者団に「隣に住んでいたら嫌だ。見るのも嫌だ」と発言した。首相が更迭したのは当然だ。
 差別と偏見に満ちた言葉が、首相官邸の中枢から飛び出すのは極めて異例と言える。政権の人権意識が欠如している表れではないのか。首相は不当な差別や偏見の解消へ向けて先頭に立つべきである。
 荒井氏は3日夜、オフレコを前提とした記者団の非公式取材で、同性婚制度に関し「秘書官室は全員反対で、私の身の回りも反対だ」と強調。導入された場合は「国を捨てる人、この国にいたくないと言って反対する人は結構いる」とも述べた。発言の重大さに照らしメディアが一斉に報じ、批判が広がった。
 今回の発言の背景には、首相の国会答弁がある。
 首相は1日の衆院予算委員会で、同性婚の法制化に関して「極めて慎重に検討すべき課題だ」と答弁。理由として「家族観や価値観、社会が変わってしまう」と否定的な見解を表明していた。
 荒井氏は広報担当として官邸の情報発信や報道対応を務め、首相のスピーチ作成も担っている。政権の要職にあり首相答弁の正しさを説明しようとしたのだろうが、官邸自体が性的少数者への差別感情を共有していたのではないか、と国民から疑念を持たれても仕方あるまい。
 首相は秘書官の職を直ちに解くことを決断し、「政府の方針とは全く相いれないものであり、言語道断だ」と批判した。
 ただ、自身が任命した側近の発言だ。糾弾するならば、選択的夫婦別姓問題を含め、自身と政権の認識をより丁寧に説明する必要がある。
 岸田政権の人権感覚が問われたのは、今回が初めてではない。
 昨年の内閣改造で、過去に性的少数者を「生産性がない」と表現したことなどが知られていた杉田水脈衆院議員を総務政務官に起用したものの、結局更迭に追い込まれた。
 今回の問題を受け、野党に加えて与党の公明党からも、性的少数者への理解増進を図る法律の整備を急ぐべきだとの声が上がっている。
 法案を巡っては、超党派の議員連盟が策定を主導、2021年の通常国会で与野党の実務者が協議し、法案内容で合意した。だが、一部保守派が強く異論を唱えた自民党は了承せず、法案は国会に提出されていない。
 首相は「多様性が尊重され、全ての方々の人権、尊厳を大切にする共生社会」を掲げる。その実現に向けて、まずは自民内の人権意識改革に努めなければならない。