[中国気球撃墜] 緊張の激化回避したい
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 米軍は、米本土に飛来した中国の気球をバイデン大統領の指示で撃墜した。海上に落下した残骸の回収を急ぎ、連邦捜査局(FBI)と連携して解析を進める。
 米側は、米本土の戦略的拠点を監視する目的で中国が飛ばした偵察気球と断定、「明白な主権侵害と国際法違反」と非難した。一方、中国側は民間の気象研究用だと主張し、撃墜を「明らかに過度な反応」と反発している。
 米中は台湾、東・南シナ海などの安全保障分野で対立が激化している。新たな火種によって軍事的緊張がエスカレートしないよう対抗措置を控え、冷静に対話を重ねるべきである。
 気球は1月28日にアラスカ州アリューシャン列島北方の防空識別圏に入り、30日にカナダ上空を通過、その後米本土に侵入した。米本土を横断する形で飛行し、今月4日に大西洋に出たところで撃ち落とされた。
 陸上で撃墜すると、残骸で被害が出かねない上、海上の方が破損しにくく回収しやすいと判断したためだが、野党共和党などはバイデン氏の指示が「遅すぎた」と批判している。
 「大統領は最も機密性が高い場所の通過を許した」というのがその理由である。気球は大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射施設があるモンタナ州などを通った際、鮮明な画像を入手し通信を傍受したとみられるからだ。
 現代の偵察気球はカメラやレーダーを搭載し人工衛星に比べ動きが遅いため、時間をかけて低い高度から広範囲を観測できる。低コストに加え、簡単に打ち上げられる利点もあるという。
 米軍当局者によると、中国の気球はここ数年、東アジアや南アジア、欧州など五大陸でも確認されている。2019年11月に鹿児島県で、20年6月と21年9月には東北地方でも今回の気球と酷似した飛行物体が目撃された。
 日本政府は気球の飛来が領空侵犯に当たると判断すれば、自衛隊法に基づき自衛隊機が緊急発進(スクランブル)して対処する方針だ。ただ、武器使用は正当防衛や緊急避難の場合に限り認められている。高高度で搭載物を識別する監視能力も必要になり、撃墜はハードルが高い。
 今後も飛来する可能性がある。危険性をどう判断し対処するべきか詰めておくことが必要だ。
 ブリンケン米国務長官は気球飛来問題を受けて、予定していた訪中を延期した。その後の電話会談で中国の外交担当トップが意思疎通の継続を伝えたのは、新型コロナ禍でダメージを受けた経済を立て直すため、対米関係を安定させたい考えの表れだろう。
 ブリンケン氏も条件が整えば訪中する意向を示している。両国は対話外交を通じて、関係改善を模索していかなければならない。