[県内展望] 現実を直視し未来への構想を練ろう
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 JR肥薩線の吉松-人吉間35キロは、鹿児島、宮崎、熊本の3県にまたがる山越え区間だ。「山線」の愛称で全国の鉄道ファンに知られている。
 スイッチバックやループなど、蒸気機関車の登坂能力に合わせて造られた明治時代の線路の構造は今も現役だ。1909(明治42)年にこの区間が開通して、東京と鹿児島が鉄路でつながった。鉄道史の記念碑的な意味も大きい。
 明治維新後の近代国家建設で、鉄道は日本の大動脈だった。路線の一つ一つが文化遺産的な価値を持ち、沿線住民の生活を支える役割も果たしている。
 だが、吉松-人吉間はJR九州が昨年公表した区間ごとの1日当たりの乗客数で、最下位の108人だった。旧国鉄時代に廃線検討の目安とされた4000人をはるかに下回っている。
 利用者の減少で便数が減らされ、利便性が落ちてますます乗客が減る。鹿児島県内には将来の廃線候補になりそうな不採算路線が少なくない。
 何も鉄道だけの話ではない。どんなに素晴らしい自然や景観、歴史があり、住む人や出身者にとって大切な古里でも、住民が減れば企業や商業施設が撤退し、病院や学校が統廃合される。そして人口減少が一層加速する。
 この悪循環にどう対応するのか。必要なのは現実を直視し、50年先、100年先を見据えた手だてである。次世代に先送りできない責任だ。
観光躍進の追い風
 5年程度の短期を展望すれば、鹿児島は観光を中心に躍進する好機を迎える。
 明治維新150年という節目の今年、維新の原動力となった人材を輩出した鹿児島は何かにつけて注目を浴び、観光客は増えるだろう。特にNHK大河ドラマ「西郷どん」の放映は大きな追い風になるに違いない。
 今夏に見込まれる奄美の世界自然遺産登録も楽しみだ。
 2020年東京五輪・パラリンピック開催の波及効果も期待できる。直後の鹿児島国体と合わせて、地域浮揚につなげなければならない。
 鹿児島市では天文館地区、鹿児島中央駅地区、交通局跡地で再開発計画が次々に具体化する。薩摩川内市の川内駅東口には、コンベンション施設(大型会議場)の建設が今秋にも始まる予定だ。
 こうした大規模事業は雇用を生み、街に人を呼び寄せて一定の活気をもたらすだろう。
 だが、肝心なのは効果を一過性で終わらせない将来構想だ。上げ潮ムードに浮かれ、楽観主義を決め込むわけにはいかない。
 鹿児島の抱える中長期的な課題は、何といっても人口減だ。国立社会保障・人口問題研究所は、60年の県の人口を現在より約60万人少ない102万人程度と推計している。
 人口の急減は日本が直面する国家的な課題である。
 昨年末、厚生労働省が公表した人口動態統計の年間推計で、17年の死亡数から出生数を引いた自然減は過去最大の40万3000人だった。自然減は11年連続で、しかも減少幅は年々拡大している。
 同時に急速に進むのが高齢化だ。団塊世代が全員75歳以上になる25年、65歳以上の高齢者は約3677万人に達し、国民の3人に1人となる。世界に類のない高齢大国だ。
 もちろん、長生きは喜ばしい。だが、税金や社会保険料を負担する現役世代の減少と同時進行となれば、医療や介護、年金などの制度は大きく揺らぐ。
どんな社会目指すか
 県内では各自治体が競うように定住促進策や出産・育児支援策を打ち出している。
 目指すべきは子どもを持ちたいと望む誰もが安心して出産、子育てできる社会だ。自治体だけでなく企業も、将来の社会の担い手を育てる当事者意識を高めたい。
 一方で、人口減や高齢化、勤労世代の減少を既定路線と捉える視点があってもいいのではないか。
 明治維新後の日本は殖産興業、富国強兵策に始まり、拡大再生産を繰り返して成長してきた。だが、この成功体験の延長上に未来があるとは限らない。
 もちろん、衰退を座視せず歯止めをかける努力は欠かせない。交通弱者の生命線であるローカル線の存続には地域一丸で取り組みたい。観光振興のチャンスは確実に物にしなければならないし、都市再開発の効果はできるだけ多くの人に波及させる工夫が必要だ。
 ただ、人口規模に合わせた地域の構想も同時に練っていきたい。
 例えば役所、学校、医療福祉施設、商業施設といった公共、民間のサービスをある地区に集中し、周辺に住民が住むような機能的でコンパクトな街づくりだ。
 当然、賛否は分かれるだろう。里山や漁村で自給自足に近いつましい暮らしを営む選択も、最大限尊重されるべきだ。地域住民がさまざまな価値観を示し、すり合わせる作業が今こそ必要なのではないか。
 郷土の未来に、住みやすさや安心、安全をあきらめるわけにはいかない。明治維新150年の今年、身の丈に合わせた戦略づくりに腰を据えて取り組みたい。