[首相年頭会見] 改憲前のめりでは困る
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 「今年こそ、憲法のあるべき姿を国民にしっかり提示し、改憲に向けた議論を一層深める」
 安倍晋三首相は年頭記者会見で憲法改正に向けた早期の国会発議の実現に意欲を示した。
 今月召集の通常国会で、与野党に議論を促す狙いがある。
 だが、そもそも憲法を定める目的は、権力を統制して国民の人権を守ることにある。「自民党総裁として」と断ったとはいえ、権力側の首相が「あるべき姿を提示する」と述べることに違和感を抱かざるを得ない。
 前のめりに改憲論議を促す態度では困る。会見で首相は「声なき声」に耳を傾けると述べたが、「聞きたくない批判の声」にも真摯(しんし)に向き合ってもらいたい。
 首相は昨年の憲法記念日に2020年の改正憲法施行と、戦力不保持などを定めた9条2項を維持したまま自衛隊を明記する「加憲案」を唐突に提起した。
 昨年の発言を「議論の活性化を図るための一石」とした首相が、年頭会見でさらに具体的な検討を後押しした形だ。
 だが、衆院で野党第1党の立憲民主党は9条への自衛隊明記に反対姿勢を強めている。連立を組む公明党も9条改正には慎重で、幅広い合意形成には程遠い。
 足元の自民党内にも、強硬な首相の発言に懸念の声がある。
 首相の意向を踏まえる形で自民党の憲法改正推進本部は昨年末、9条の自衛隊明記や教育の無償化など改憲を目指す4項目について論点をまとめた。
 焦点の9条は、加憲案と2項を削除する案の両論併記となった。絞りきれなかったのは、首相の加憲案に対する反対論が根強かったからだ。
 大規模災害時などの緊急事態対応でも、国会議員の任期延長を認める案と、政府への権限集中や私権制限を含めた本格的な緊急事態条項を新設する案を併記した。
 立憲民主党などが主張する「首相の解散権の制約」などに触れていないのも一方的だ。自民党はもっと党内で熟議するべきだ。
 首相は22日からの国会を「働き方改革国会」と命名した。しかし、昨年の臨時国会での論議が先送りされたのは、首相が衆院を解散したからだ。解散に当たって「国難」と呼んだ「少子高齢化」への対応も待ったなしである。
 国会が早急に取り組む課題は明らかだ。改憲にひた走っている場合ではなかろう。
 改憲は国民投票で過半数の賛成が必要である。無理を押し通せば、国民の分断にもつながりかねないことを忘れてはならない。