[原賠法改正案] 事故への備えを怠るな
( 11/8 付 )

 政府は原発事故前に備える賠償金(賠償措置額)を現行の最大1200億円に据え置いた原子力損害賠償法改正案を閣議決定した。今国会での成立を目指す。
 東京電力福島第1原発事故では今年7月時点で8兆円を超える巨額の賠償金が発生している。専門家からは、原賠法で定める民間保険や政府補償による賠償措置額の上限を引き上げる必要性が指摘されていた。
 政府と電力会社の調整がつかず引き上げが見送られたことは納得しがたい。事故への備えを怠ったまま原発の再稼働だけが進むことを強く危惧する。
 改正案では電力会社の賠償責任に上限を設けない現行の「無限責任」や、事業者が過失の有無にかかわらず賠償責任を負う「無過失責任」は維持した。
 福島の事故で賠償開始が遅れたことを踏まえ、賠償請求の手続きなどを定めた方針を事前に作成し、公表することを電力会社に義務付けた。電力会社が賠償金を仮払いする資金を国が貸し付ける制度も新たに設ける。
 事故時の迅速な救済に備えておくことは当然だ。
 福島第1原発事故は、未曾有(みぞう)の被害をもたらした。
 賠償資金は原賠法の枠組みではまかなえず、東電を事実上国有化し、国が資金支援するという窮余の策が整備された。
 2011年に国が賠償を支援するための原子力損害賠償支援機構法が成立したとき、国会は付帯決議で原賠法の1年以内の見直しを要請。検討を進めてきた専門部会では賠償措置額に高い上限を設ける意見が出され、「支払い能力がない電力会社は原発から撤退すべきだ」という声さえあった。
 ところが、電力自由化による競争や再稼働に必要な安全対策費がかさむなかで、電力業界は補償料の負担増を嫌がった。国も財政出動による世論の反発を恐れて政府補償の増額に難色を示し、最終的に引き上げは見送られた。
 国も電力会社も、国民や福島の被災者の不安を置き去りにしていると言わざるを得ない。将来の事故リスクから目をそらすことになり、無責任極まりない。
 政府が7月に改定した新しいエネルギー基本計画でも原発はベースロード電源に位置づけられ、30年度の発電割合は20~22%に据え置かれている。
 事故の備えにどれだけの負担が必要なのか、発電コストはどこまで上がるのか。これからも原発を使い続けたいというのなら、国は国民に正面から向き合い、説明したうえで判断を仰ぐべきである。