翔べ和牛 鹿児島全共
<連載-産地はいま>

 2022/03/08 11:07

【翔べ和牛 産地はいま⑤】高値続く子牛価格 10年で1.7倍に 「赤字も覚悟」 拡大路線はインバウンド需要で拍車

不足感から高値の取引が続く子牛の競り=2月10日、さつま町の薩摩中央家畜市場
不足感から高値の取引が続く子牛の競り=2月10日、さつま町の薩摩中央家畜市場
 2月上旬、さつま町の薩摩中央家畜市場。子牛を買い求める県内外の肥育農家たちで緊張感がみなぎる。コロナ禍でインバウンド(訪日外国人客)需要が消えたものの、2日間の競り平均価格は71万円の高値に張り付いた。

 「この金額で買って、果たして利益を出せるのか」。町内で肥育牛千頭を飼う福永畜産の福永充社長(54)はぼやく。牛を飼い始めて33年になるが、ここ数年は経験したことのない値という。10頭を仕入れ、市場を後にした。

 子牛は不足感から高値が続く。JA県経済連によると、2021年度の県内平均は64万7000円(2月末現在)。この10年で1.7倍に跳ね上がった。

 少しでも安い子牛を求め、離島の市場にまで足を延ばす農家も珍しくない。

■小さいパイ

 子牛の高値は、売る側の繁殖農家にとって追い風と言える。しかし、高齢化や後継者難で、一気に増産とはいかない。国内トップの鹿児島でも、子牛生産の年間目標としている9万頭を割る状況が続く。

 ライバル産地の宮崎は10年に法定家畜伝染病の口蹄(こうてい)疫、東北地方は翌11年に東日本大震災が発生。その影響が尾を引き、子牛の全体供給量は今なお回復していない。

 一方、肥育農家の購買意欲は旺盛だ。

 高コストで利幅が薄く、もともと大規模化が避けられない経営構造。そこに15年以降のインバウンド急増により和牛消費が大きく伸びたことで、拡大路線に拍車がかかった。

 多額の資金を投じて牛舎を増設した以上、子牛が高くても買って肥育して出荷しなければ返済どころか、運転資金もままならない。「無理を承知で高く買うケースもある」と福永さん。

 小さいパイを奪い合う構図が、コロナ禍でも子牛価格が高止まりしているゆえんだ。

■一貫経営

 子牛の購入費は生産コストの6割超を占め、肥育農家にとって限界に近づきつつある。

 「競りでは買えなくなるかもしれない」。福永畜産は8年前、危機感から子牛生産に乗り出した。繁殖・肥育をともに手掛ける一貫経営にかじを切る動きは同社に限らない。

 これを可能にしたのが情報通信技術(ICT)の進展だ。子牛を計画的に産ませるのは難しく、繁殖と肥育の分業体制がとられてきたが、発情兆候をセンサーでチェックするシステムが登場。繁殖農家以外でも経営の理想とされる「1年1産」を実現できるようになった。

 同社は当初30頭だった母牛を470頭まで増やした。既に肥育牛の4割が自家産となり、子牛を買わずに済む「完全一貫経営」が視野に入る。

 福永さんは「子牛相場に左右されない経営を実現していく」と力を込める。
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