2022/05/12 11:30
高タンパク、低カロリーの赤身肉 「里山牛」を育む放牧場は中山間地域の耕作放棄地 ビジネスモデル確立の鍵は、持続可能性を追求する生産方法への「共感」

耕作放棄地で雑草をはむ和牛。体は締まり健康的だ=志布志市志布志
ジャガイモや茶の畑が広がる中山間地域に、ところどころ和牛の放たれた区画が現れた。
「ブチッ、ブチッ」。音のする方に目を向けると、牛が長い舌でむしり取るように草をはんでいた。
そこは、さかうえ(同市)が手掛ける「里山牛」の放牧場。サッカーコートよりも広い空間で、4頭が気ままに動き回る。
「走ったり、跳びはねたりすることもある。野生に近い感じ」。飼育管理を担当する渡辺匠さん(25)は、こう話す。
■草育ち
野菜の契約栽培や粗飼料生産を主力事業とする同社は、2019年から和牛の肥育を始めた。お産の役目を終えた雌牛を放牧し、デントコーン(飼料用トウモロコシ)や牧草を発酵させた自社製の粗飼料と雑草だけで育て上げる。
低カロリーな餌を食べ、放牧により運動するため体が締まる。肉質は赤身中心で、サシ(脂肪交雑)はほとんど入らず、格付等級でいえば2等級程度にしかならない。
しかし、同社が売りにするのは里山牛を介した農業システムにある。
放牧場として活用しているのは、中山間地域の耕作放棄地だ。放牧をすれば牛が雑草を食べ、草刈りの役目を果たす。排せつ物は土を肥やし、荒れ地が再生する。そこで牧草を育て、牛の餌とする。地域内で資源をうまく循環させることで、農村社会の持続的発展につなげる狙いだ。
「里山牛のビジネスモデルが確立できれば、耕作放棄地や鳥獣被害といった日本全国にある問題解決につながる」。営業部の中川昌聡部長(32)は力を込める。
■販路開拓が鍵
現在、年間70頭程度を出荷している。ただ、課題となるのはやはり販路。肉の味や質に自信はあっても、サシの量や見た目が重視される一般流通ルートでの販売は難しいのが実情だ。
このため、市場を通さずほぼ全量を自社のネットショップで直売する。事業発展の鍵は、環境保全や社会問題に配慮し、持続可能性を追求する生産方法に共感してくれる顧客を見つけられるかにかかる。
とはいえ、販売2年目に入り中川部長は手応えを感じている。霜降り肉と遜色ない値段で販売しているものの、高タンパク、低カロリーの赤身肉に対する購買者の反応はよく、ファンもついた。自給飼料と放牧による肥育は、環境への配慮が叫ばれる現代のニーズにも沿うとみている。
「世の中に求められるものを作り、農業を通じた社会の最適化を求める」。さかうえの理念だという。
(連載【翔べ和牛 第4部 地球と歩む】より)

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