翔べ和牛 鹿児島全共
<連載-持続への挑戦>

 2022/06/27 11:00

鹿児島黒牛VS佐賀牛 九州では大差、全国でも認知度は佐賀に軍配…理由は効果的な予算の使い方にあり

駅のホームに設置されたデジタルサイネージで流れる佐賀牛の広告=9日、福岡市の地下鉄博多駅
駅のホームに設置されたデジタルサイネージで流れる佐賀牛の広告=9日、福岡市の地下鉄博多駅
 柱に設置されたデジタルサイネージに、真っ白な霜降りが映えるステーキ肉の写真が映し出される。多くの客が利用する福岡市地下鉄博多駅ホームの一画だ。

 「艶(つや)さし、プレミアム」「おいしい笑顔に会える」-。そんな売り文句とともにステーキ、焼きしゃぶ、せいろ蒸しと次々と画面が切り替わり、行き交う人々の食欲を刺激する。

 JAさが管内で生産されるブランド牛「佐賀牛」の広告だ。生産地の佐賀県に隣接し、九州の全人口の4割が集中する福岡県には、年間出荷量の約半分が仕向けられる。

 「限られた予算の中、宣伝費は後回しにされがちだが、効果を見極めて打てば影響力は大きい」。そう話すのは、JAさが畜産販売課の山下拓朗さん(31)。佐賀牛の国内販売促進を担当している。

 南日本新聞社が3月に全国の消費者千人を対象に実施したオンライン調査では、鹿児島黒牛の認知度が30%だったのに対し佐賀牛は54%。九州圏に限ると、71%と突出した。特に大消費地・福岡での知名度が影響したとみられる。

■#在宅佐賀牛

 佐賀牛は、1984年に命名され、大阪や神戸の市場に初出荷された。

 88年からは有名タレントを起用したテレビCMの放映を開始。「神戸あたりでは知られていたが、もう名乗ってもいいでしょう『佐賀牛』」のキャッチコピーで、関西で知名度が上昇した。

 「佐賀県は人口が少なく、都道府県の魅力度ランキングも下位。売っていくには宣伝に力を入れるしかない」。長年、佐賀牛の販路拡大に腐心してきた立野利宗技術参与(74)は話す。

 ウェブ戦略にも力を入れる。新型コロナウイルスの感染が拡大した2020年には、公式ツイッターで実施したプレゼントキャンペーン「#在宅佐賀牛」が話題になった。22年6月時点で、フォロワー数は4万8000人を超える。

■予算確保

 効果的な宣伝に欠かせないのが、安定的な予算の確保だ。山下さんは「高い効果が期待できるのに、お金がなくて広告を打てないのはもったいない」と語る。

 JAさがでは07年から、佐賀牛・佐賀産和牛の出荷者がお金を出し合って宣伝費に充てる「チェックオフ制度」を導入。1頭あたり1300円を支払う。生産者でつくる佐賀牛消費宣伝事業委員会には、事業の計画や結果が報告され、生産者も販促に関わる体制ができている。

 山口伸彦会長(52)は「拠出金がどう使われているか分かり、効果が実感できる。個人的にはもう少し支払っても良いと思う」と話す。高齢化で県内の和牛出荷量が減少する中、宣伝費の確保が将来的に難しくなることを見越した発言だ。

 ブランド力の強化は、農家の収入向上につながる。「佐賀牛をたくさんの人においしく食べてほしい」。山口さんの願いは、多くの農家に共通するものだ。それをかなえるためにPR戦略の果たす役割は大きい。

 (連載【翔べ和牛 最終部 持続への挑戦】より)

(別カット)駅のホームに設置されたデジタルサイネージで流れる佐賀牛の広告=9日、福岡市の地下鉄博多駅
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