
「さん」「君」などの敬称の使い方を記す共同通信社刊の「記者ハンドブック」
男の子を「君」と表記するのに違和感がある-。南日本新聞「こちら373」(こちミナ)に読者から意見が寄せられた。紙面では原則、小学生の男児の敬称が「君」、女児に「さん」を使う。近年、多様性を尊重しようと呼び方を統一する動きもある中、議会や行政、教育現場はどう対応しているのだろうか。
南日本新聞は共同通信社(共同)の新聞用字用語集「記者ハンドブック」に準じ、人名の敬称を表記する。それによると「原則として『氏、さん、君、ちゃん』を使う」とある。
子どもに関し四つの事例を表示。(1)男女とも中学生以上は「さん」(2)小学生の男子は「君」、女子は「さん」(3)「ちゃん」は主に小学校入学前。小学生も特別なケースでは適宜「ちゃん」を使用してよい(4)スポーツ関係の記事など内容によっては、男子中高生に「君」を使ってよい-とする。
平川順一朗報道本部長は「共同の配信記事との整合性を取り、混在しないようにしている。世論の流れにも照らし、表記の在り方を考えたい」と説明する。
■議会や行政の対応
鹿児島県議会は慣例として男性、女性とも「君」。北海道新十津川町議会も「君」と呼ぶ。議会だよりで「君主、主君が由来。対等で敬意を込められる」と記した。鹿児島市議会は1996年12月以降、「君」を「議員」に。「女性議員から違和感」「言葉に対する認識の変化」が理由だ。
兵庫県宝塚市は市民向け表現ガイドラインで「男女とも『さん』とする」と呼び掛ける。2019年3月、職員用を改訂した。担当者は「より平等になり、性的マイノリティーの人々への配慮にもなる」と効果を語る。
鹿児島県は「公的広報の手引き」を04年に作成。呼び分けには必要性や平等性への配慮が必要とし、「同一広報では同一の呼称や敬称を心掛けましょう」と示す。市町村を含む新規採用職員の研修や庁内研修で使っている。
■教育現場では
本紙ひろば欄には1月、小学生の呼称の使い分けが「気になる」との投稿が教員から届いた。多くの学校では性別で分けない名簿を使い、男女とも「さん」を付けるようになっていると紹介。「性別という属性よりも個を尊重する地元紙であって」と要望した。
学校関係者らによると、以前は呼び捨てや、「ちゃん」「さん」「君」が混在する場面が多かった。「自分が大切にされていない」「他の子より親しくない」-。児童生徒のさまざまな受け止めも懸念され、そろえる動きが出たという。
校長経験がある鹿児島市の60代男性は「呼称の統一を巡る議論は新任時代からあった」と振り返る。「統一ありきでなく、多様性を尊重する視点から考えを深めることが大切だろう」と話す。
■「皆が居心地良い社会へ」
男女の呼称について中京大学の林みどり助教(言語学)と名古屋大学の大島デイヴィッド義和准教授(同)が行った意識調査によると、「さん」「君」などの呼び分けは避けるべきだとの意見を「聞いたことがある」とした人が約45%で、呼び方に配慮する考えが認知されている現状がうかがえた。一方、使い分けに問題があるとの意識は低く、男女の認識の違いも浮き彫りになった。
調査は2020年7月に実施し、20~60代の計295人から有効回答を得た。「『君』『さん』の使い分けは性差別につながり、場面によって避けるべきという意見を聞いたことがあるか」との質問を基に、意見を巡る賛否などを尋ねた。
「聞いたことがある」は45.1%で、女性(50.9%)が男性(38.1%)より多かった。賛否に関しては「どちらともいえない」が性差を問わず最多。「賛成」「どちらかといえば賛成」は18.6%で、女性(23.6%)が男性(12.7%)を、「反対」「どちらかといえば反対」が25.4%で、男性(31.3%)が女性(20.5%)をそれぞれ上回った。
賛成派からは「男女平等に厳しい現状を踏まえ、トラブルが少ない」(40代女性)、「心の性が違うと感じている人がいる」(50代男性)といった声が上がった。反対派は「受け取る側が過敏」(20代男性)、「いろんな言い回しがあるのは日本語の特長」(50代女性)などの意見が並んだ。
林助教は「呼称で傷つく人もいる。呼称を考えることが、性的マイノリティーなど皆が居心地の良い社会へ目を向けるきっかけになるといい」と期待を込めた。