奄美群島応援コラム奄美なひとときAmami na Hitotoki


「記憶のなかに生きるシマ」へ
発信します!沖永良部島の「宝」
author: 安田 拓(更新日:2016年04月14日)

赤土の中で育ち、日本一早い春を届ける沖永良部産じゃがいも「春のささやき」とポスター
「シマに帰ろう!」
愛知県の大学を卒業後23歳で結婚、一人目の子どもが産まれ、関西での仕事も家庭も順調だった。休日には社会人サッカーをしたりショッピングを楽しんだり、故郷・沖永良部島の出身者らの集まりである沖洲会のイベントに参加したりと、都会での生活を大いに満喫していた。
ただ、心のどこかに「シマに帰りたい」と思う自分もいた。
ある日、休日に家族でスーパーに買い物に行くと、青果コーナーの片隅に沖永良部島産のじゃがいもが並んでいた。都会ではなかなかない、シマを感じることのできる光景だっただけに、故郷で農作業に明け暮れた昔を懐かしく思い出し、とてもうれしかった。
しかし、隣に並んでいる別の産地のじゃがいもは1キロ198円、沖永良部島産は158円。大きさも量も同じなのにどうして? シマの赤土に優しく包まれ、南国の太陽と潮風を浴びて育った日本一のじゃがいもに、他の産地と40円も差が出ている。このとき何故か「シマに帰ろう」と思った。
そういえば、私の周囲の人も私の故郷のシマのことを知らない。「沖永良部島って沖縄県やろ?」「島でじゃがいもができるわけないやん」とか、いろんな事を言われた。しかし、実家から送られてくるじゃがいもを食べてもらうと、目の色を変えて喜んでもらえた。とても美味しいと言ってもらえた。多くの人が、本当に沖永良部島のことを知らないのである。
市場原理には逆らえないかもしれないが、この沖永良部島産のじゃがいもを1円でも高く売りたい! 沖永良部島を全国の多くの方に知ってもらいたい! よっしゃ! 島に帰って役場職員になろう!
口は人より達者だが勉強は大嫌いだった私が、土日も図書館にこもって狂ったように猛勉強をした。そして2010年、念願かなって和泊町役場に就職することができた。今は、地域の方々と共に様々なことにチャレンジしながら、沖永良部島が持つポテンシャル(潜在的な能力、可能性として持つ力)の高さを実感する日々だ。
この時のことを毎年3月、じゃがいもの収穫最盛期が来るたびに思い出す。

満開のえらぶゆり(笠石海浜公園)。子どもも負けずに笑顔
伝統を次の世代へ!
島民の心の中に1年中咲く花がある。「えらぶゆり」だ。柔らかな香りを漂わせ、凛として咲く真っ白な花。花言葉は「純潔」「威厳」「復活」。欧米では古くから、純白の百合は春を告げる花「イースターリリー」、聖母マリアのシンボル「マドンナリリー」と呼ばれ愛されていた。
明治時代、シーボルトによって欧米にもたらされたという日本の百合は、またたく間に人気となり、多くの球根が日本から輸出された。100年を超える生産の歴史があり、沖永良部島の経済も、えらぶゆりに支えられてきた。

沖永良部空港の愛称が「えらぶゆりの島空港」に決定!
4月下旬、和泊町の笠石海浜公園には12万輪のえらぶゆりが満開を迎え、島民をはじめ多くの観光客が訪れる。和泊町では平成26年度、地域資源であるえらぶゆりを大切にし、活用しながら地域おこしを目指す地域活性化プランを策定した。「これまで百年、これから百年 えらぶゆり」を合言葉に、景観づくり、イメージアップ、花育プロジェクト、緑の環境保全プロジェクトなど地域と行政が連携し、伝統を次の世代へ紡いでいく取り組みを進めている。
(詳しくは、えらぶゆりホームページ http://erabuyuri.com/wps/)シマではまた、5月5日に「マハダグムイ」が開催される。マハダグムイとは、イソマグロの追込み漁のことだ。伝統漁法として梅雨の時期に行われていたが、魚の価値がもともと低いことや漁師の高齢化などにより途絶えていた。
この伝統漁法を観光イベントとして、おきのえらぶ島観光協会が4年前に復活させた。
漁師達がリーフの外側に舟を出し、イソマグロの大群を沖の方から水深60センチから70センチほどの浅瀬まで徐々に追い込んでいく。体長1メートル以上、重さ10キロを超すイソマグロが姿を見せると、漁師たちが入り江に追い込んだイソマグロを、魚の動きに合わせながらモリで仕留める。大きな水しぶきとともに魚が陸に上がると観客の大歓声が沸く。迫力のある漁を目の前で見学でき、とれたての魚を刺身にして味わう。

毎年1000人を超える観衆が訪れる「マハダグムイ」
沖永良部島だから堪能できる、究極のネイチャーエンターテイメント。ぜひ、今年はシマを訪れ、マハダグムイを体感してほしい。
(詳しくは、おきのえらぶ島観光協会ホームページ http://www.okinoerabujima.info/)
島民の笑顔の花が、最高の宝だ
シマの宝を発信したい!
沖永良部島の基幹産業は農業だ。そのためか他の離島に比べると、これまで観光には力を注いでこなかった。 2018年の「奄美・琉球」世界自然遺産登録を目指す取り組みが進んでいる。沖永良部島は登録地域には含まれていないものの、交流人口を増加させ、ありのままの島風景、伝統、文化、食、しまんちゅの温もりや笑顔といった「シマの宝」を生かした観光を通し、地域づくりができるチャンスが訪れる。
沖永良部島の島民性は、真面目で口数が少ないが人情味があり、穏やかというところだ。もちろん良い面もあるが、世界一魅力的な島のポテンシャルは心の中に秘めたまま、とも言えるだろう。島の人が、島にあるものを世界一と思えば世界一である。沖永良部島の素晴らしさを、誇りと自信を持って世界に発信していきたい。

「ケイビングの聖地」とも言われる沖永良部島
近年、沖永良部島ではケイビング(洞窟探検)の人気が高まっている。地下には多くの大鍾乳洞群が広がっており、そのバリエーションの豊富さと鍾乳石(しょうにゅうせき)の美しさは、国内外のケイバー達を惹きつけている。
年間利用客数は1200人を超え、年々増えている。数億年の時を越え自然が創り上げた神秘的な造形美が見ものだ。「虎穴に入らずんば虎子を得ず」ということわざがあるが、まさにその言葉の通りで、お金と時間に代えられない価値が間違いなくある。
(詳しくは、沖永良部島ケイビングガイド連盟 http://caver.jp)
グランプリを獲得した「沖永良部島ソーセージ」
また特産品分野でも、平成27年鹿児島県漁業振興大会第49回水産物品評会で「沖永良部島ソーセージ」が農林水産大臣賞(グランプリ)を獲得した。ほかにも、魅力的な特産品がデザインと融合し、次々にデビューしている。
やってできないことはない。やらずにできるわけがない!私は、この4月で観光を担当し5年目となった。まさに毎日がエンターテイメント。沖永良部島の可能性を模索しながら、地域の皆さんと一緒になって無我夢中で走っている。訪れたお客様の「記憶のなかに生きるシマ」を実現するために、さらに進化していきたい。
さあ! 明日もまた新しい朝が来る! ひとつひとつの想いをカタチに変えるため、「泣けぬなら、泣くまでやろう公務員」をモットーに、お客様の最高の一瞬をプロデュースできるように、沖永良部島と共に挑戦していく。

奄美が大好き!なわたしが、旬の奄美をご紹介
あまみんちゅ[no.47]
マシュー・ターナーさん(奄美生物多様性ガーデンズ)
奄美に移り住んで4年ほど。国際農業研究協議グループ(CGIAR)との協力で、宇検村と瀬戸内町に「奄美生物多様性ガーデンズ」を開いて、生物多様性保護と「適応的農業」の研究を進めている。中でも、バナナの栽培に力を入れており、1ヘクタールの農園で約73種ものバナナを栽培している。
奄美大島で栽培されている「島バナナ」はもちもちして甘い。だが、害虫や寒さで傷んだときや、肥料が足りないときなどには味が落ちてしまう。マシューさんは、現在の島バナナ(別名:小笠原種)は100年以上前にハワイ諸島から小笠原諸島を経て、琉球・奄美地域にもたらされたものではないかと考えている。
ハワイなどでは、この品種は「シルクバナナ」として愛されているという。バナナの栽培適地と思っていた奄美だが、実は気候条件は厳しい。害虫・病気が多く、冬の気温が低いことや季節風・台風によって葉が傷み、木が倒れることもある。他の果樹に比べて、公的な支援が少ないのもネックだ。それでも「いろんな品種を育てて、なんとか奄美に適した品種を見つけ出したい」と思いは熱い。

英国生まれ。ニュージーランドの大学で物理学を専攻した。大学卒業後、外国語指導助手(ALT)に応募し、2年間勤めたのが日本に来たきっかけだ。北から南まで動植物の種類の豊富さ、人と自然がともに暮らす生活に魅了された。その後、大学院で農業の研究をした。半分農業、半分研究の生活をしようと農地を探す中、自然いっぱいの奄美が気に入り、3年ほど前に家族も移住した。
7メートルの高さにもなる品種や、皮が赤いもの、カロテンを含みオレンジ色の実をつけるものなど、同じバナナでも味や特徴はさまざま。たくさんのバナナの原種・野生種を育てているのは、絶滅の恐れがある品種を守り、バナナの多様性を保つためでもある。そして、使われていない農地をうまく活用できたらと考えている。「害虫に強い品種、収穫までの期間が短い種類を発見できれば、主食としてバナナを食べているアフリカ・オセアニア地域の人へも提供できるのでは」と夢は広がる。

DATA
夢来夢来 むくむく
- 2015年4月にオープンした、おいしい焼き立てパンと島料理が味わえるカフェ。社会福祉法人三環舎が運営している。ハンダマなどの地元の野菜も使ったむくむくバーガー(税込み227円)、どっさりリンゴパイ(同172円)などのほか、カフェでは島じゅうり(島料理)ランチ(864円・コーヒー&デザート付き)も人気。おかずがたくさん詰まった島じゅうり弁当(同540円・数量限定)も。
- [住所]奄美市名瀬小浜町24-8
- [電話]0997-69-3005
- [営業時間]午前9時~午後6時半(カフェは5時まで)
日曜・祝日休
