コロナ感染者気遣う「結いの島」 差別、中傷超えた支え合いの土壌 与論クラスター1カ月、日常取り戻す島民たち 

(2020/08/22 10:50)
観光客の姿も見られる百合ケ浜=8月20日、与論町
観光客の姿も見られる百合ケ浜=8月20日、与論町
 人口5千人余りの与論島を襲った新型コロナウイルスのクラスター(感染者集団)発生から22日で1カ月。7日を最後に新たな感染者はない。21日、島では、シャッターを下ろしていた店が開くなど日常を取り戻しつつあった。一方、感染者への誹謗(ひぼう)中傷や差別的な扱いは大きな問題となっていない。結いが息づく島の住民たちは回復して帰島した人たちを「おかえり」「大丈夫だったか」と出迎えたという。

 「職場や近所の人が『おかえりなさい、元気になってよかったね』と声を掛けてくれる」。新型コロナに感染し、数日前に職場復帰した40代女性会社員は喜びをかみしめる。

 自身のほか、3人いる子どものうち2人が感染。県本土の病院などに搬送された。入院中は地元の知人から体調を心配するLINE(ライン)が連日届いた。「テレビで感染者への中傷が取り上げられていたので島に戻るのが少し怖かった。温かく迎えてくれて本当にありがたい」

 自営業の60代男性は3日に島に戻り、4日には仕事を再開させた。「感染が判明したときはショックもあったけど、後遺症もなく今は絶好調」と語る。「地元を歩いていると『自分も感染した。同級生だね』と声を掛けてくる知人もいる」と笑顔を見せた。

 町内では感染が相次いだ当初から、ラインなどで感染した人の名前が飛び交った。町は感染者らへの差別などが起きないよう、ホームページや町内放送で住民に注意を呼び掛けた。町によると、これまで被害の報告や相談は寄せられていない。

 40代の観光業女性は「小さな島では自分がいつ感染してもおかしくなかった。死者も出ず、みんな元気に帰ってくるのが何よりうれしかった」と語る。

 与論郷土研究会の麓才良会長(72)は「歴史的にも疫病や飢饉(ききん)などの苦難を味わってきた。誰もが感染の可能性がある中、感染した人を非難する考えには至らなかったのでは」と話した。

■専門家「感染者情報共有が奏功」
 新型コロナウイルスのクラスターが発生した与論町で、感染者への誹謗中傷や差別的な扱いが大きな問題にならなかったのはなぜか。奄美の文化や社会を研究する専門家や、新型コロナに関する差別問題などを調査する研究者に聞いた。

 奄美博物館の高梨修館長(60)は「結びつきが強く、互いに配慮し気遣う土壌が、感染者を支える姿勢につながったのではないか」とみる。「社会を機能させるには良い意味で曖昧さを受け入れるゆとりが必要になる」

 大阪大学大学院人間科学研究科の三浦麻子教授(50)=社会心理学=は、LINE(ライン)で感染者の名前などが広まった状況に着目。「感染者の情報を共有したことで、正しく恐れサポートするムードが生まれた。結果として差別が起きない方向に向かったのではないか」と推測する。

 ただ、「コミュニティーの大小に関わらず、差別や中傷が生まれるリスクは常にある。まずは一人一人が差別をしないことが大切だ」と強調した。
飲食店などが休業し人影がまばらな銀座通り=7月25日、与論町茶花
飲食店などが休業し人影がまばらな銀座通り=7月25日、与論町茶花
はり紙で当面の休業を知らせる居酒屋=7月25日、与論町茶花
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