時計 2020/10/15 17:00

「個人情報」の壁、質問粘り強く 事実積み重ね、社会不安解消の一助に〈コロナと報道 ①〉

新型コロナウイルスの感染状況を発表する鹿児島県の記者会見=7月、県庁
新型コロナウイルスの感染状況を発表する鹿児島県の記者会見=7月、県庁
 世界を揺るがす新型コロナウイルスの感染者が鹿児島県内で確認されてから、半年余りが過ぎた。未知の感染症がもたらした県内の事象を、南日本新聞の記者はどう伝えてきたか。15日からの新聞週間に合わせて振り返る。


 「高齢者であることの他は公表を控える。個人情報保護に配慮をお願いしたい」との言葉に「またか」と思った。鹿児島県が8月の記者会見で、新型コロナウイルス感染者の10、11人目の死亡を発表した時のことだ。文言はこれまでと同じで、複数の記者が死者の年代や基礎疾患について繰り返し聞いても、それ以上の答えは引き出せなかった。

 県と鹿児島市は毎日夕、感染状況を発表し、新たな感染者がいれば居住地や年代、性別、症状、行動歴を示す。南日本新聞は私を含む文化生活部医療・福祉グループの記者4人を中心に、交代で取材する。

 日々の取材で立ちはだかるのが「個人情報」の壁だ。
 感染者情報は「年代や性別、居住する都道府県を公表し、市区町村や基礎疾患は公表しない」とする厚生労働省が示す方針に基づき公表される。だが、これだけでは、住民に感染状況を知らせ、注意を喚起するのに十分ではない。

 どんな人がどんな場面で感染し、重症化する恐れがあるか。そんな情報を読者に伝えることが感染拡大の防止につながる。死者の年代や基礎疾患が分かれば、同年代や同じ疾患のある人への警鐘になる。

 少しでも情報がほしくて、取材では粘り強く質問するよう心掛けている。一方で、プライバシーを侵害しないよう神経も使う。感染者の職場を公表することで個人の特定につながる恐れがある場合などは、社内で話し合った上で詳細な情報を報道しないこともある。

 個人情報の壁は次第に高くなり、望む情報はますます得られにくくなっている。鹿児島市は親族、友人、同僚などとしていた感染者同士の関係を7月上旬以降、全て「接触者」と表現するようになった。市は「個人の特定や中傷が懸念されるから」と説明するが、これでは感染場所が家庭か職場か学校か、集団感染の恐れがあるかも分からない。

 読者から電話やメールで「地元で感染者が確認された。どんな人がどんな経緯で感染したか教えて」「発表された情報が少なく不安」などの声が寄せられる。情報の不足や曖昧さが不安を高め、疑心暗鬼を生むのではないか。

 報道するのは日々の感染者情報だけでない。感染者一人一人の情報を積み重ね、年代別や地域別、感染経緯の特徴といった県全体の状況を分析して紙面化することもある。そんな新聞の役割を果たすため、今日も質問を重ねる。