時計 2020/10/19 17:00

積み上げた知見、経験を生かす 地方、社会の姿を問い続ける使命〈コロナと報道 ⑤〉

鹿児島県内で最初の新型コロナウイルス感染者の確認を発表する記者会見=3月26日、県庁
鹿児島県内で最初の新型コロナウイルス感染者の確認を発表する記者会見=3月26日、県庁
 3月26日午後11時半、鹿児島県庁の記者会見場に多くの記者が集まり、県内初の新型コロナウイルス感染者の発表を待っていた。

 締め切りが迫る。ゆっくりと息を吐き「読者に知らせるべきことを聞こう」と自分に言い聞かせた。

 当時の三反園訓知事が概要を発表すると「どこで感染したのか」「飛行機の接触者は」などと感染経路や行動歴について詳細な質疑が続いた。南日本新聞は27日付1面トップで大きく報じた。

 それから半年余り、県内の感染者数は500人に迫る。日々の感染者数は関心事には違いないが、接待を伴う飲食店や離島でのクラスター(感染者集団)、院内感染などの事例を重ね、身構えることはなくなった。県と鹿児島市の公表方法は記者会見から資料提供に変わり、次第に記事は短く、見出しは小さくなっていく。

 読者の関心事も移り変わっていく。消毒や予防の具体策、クラスターの原因、県内の医療体制など新聞社に届く声を常に意識して記事を書いてきた。

 一時注目された「ステイホーム」は、今なら「GoTo~」だろうか。全国で感染者の発生は続くが、自粛に疲れ、景気低迷にあえぐ社会の関心は外に向く。県内でも観光や飲食店支援のキャンペーンが動き出した。

 こうした状況に鹿児島国際大学の高橋信行教授(社会福祉論)は「コロナを恐れる必要があるのかないのか。積み上げられた知見を基に正体を見極める時ではないか」と指摘する。コロナが福祉の現場や経済にもたらした弊害のほか、地方移住の増加など鹿児島にとって前向きな話題も伝えてほしいと期待する。

 世界を困難に陥れたウイルスと共存する「ウィズコロナ」の時代がやがて訪れる。

 「この経験から何を反省するのか。そこを忘れず社会に問いかけてほしい」と鹿児島大学の小栗有子准教授(社会教育学)は注文する。地方を切り捨てた末の人口の一極集中、効率化を進めて危機対応の余裕を失った医療など、中央が打ち出してきたものを、データと地方の生の声で批判的に見直すことが必要だと訴える。

 読者からは今も、感染時の状況や人工呼吸器の数など感染にまつわる質問が寄せられる。読者の不安や「知りたい事実」に向き合うことと、社会のあるべき方向を現場から問い続ける役割-。

 新聞に寄せられる期待に応えられるよう、日々考え取材を続けている。

=おわり=