時計 2020/12/23 10:00

【コロナ おだまり男爵ママの告白】デマと偏見…「鹿児島出ていけ」に折れた心 捨てない中傷の手紙は「自分への戒め」

インタビューに答える経営者の若松麗奈さん=鹿児島市船津町
インタビューに答える経営者の若松麗奈さん=鹿児島市船津町
〈癒えない傷 天文館ショーパブクラスター ㊤〉

 鹿児島県で初めての新型コロナウイルスのクラスター(感染者集団)は7月、天文館を代表する店で発生した。ニューハーフの華麗なステージで知られるショーパブ「NEW おだまLee男爵」。県内12例目の感染者となった経営者の若松麗奈さん(48)と従業員は、感染の恐怖と同時にデマと中傷にさらされた。未知のウイルスは体だけでなく、心に深い傷を残した。

 1人だけの病室。テレビや新聞、インターネットは報道が怖くて見られなかった。自分の病状への不安、感染した客、天文館や鹿児島全体に迷惑を掛けたという罪の意識…。さまざまな思いが自身をさいなむ。

 病室から店の会員制交流サイト(SNS)を更新し「心から深くおわび申し上げます」と謝罪した。そんなとき、うわさを知人からのメールで知った。

 「ママは東京のホストクラブで感染した」「誕生パーティーにホストを大勢呼んでコロナを持ち込んだ」

 今年は東京に行っていない。親しいホストもいない。鹿児島市保健所はさまざまなうわさを「(若松さんは)あくまでも最初に発症を確認した人にすぎない」と否定する。

 デマを打ち消そうと相談したが、周囲から「今は黙っていた方がいい」と諭された。たまりかねて一度だけ、在京テレビ局の取材に応じた。それでもネットには次々と新たなデマが現れた。

■疑心暗鬼
 若松さんは那覇市の出身。性別適合手術を受け男から女に戸籍上の性別を変えて、結婚した。心と体の性が一致しない生きづらさを感じながら、偏見や差別と向き合ってきた。

 「ハートは強いと自負していたけれど、今回は心が折れた」。面と向かって悪口を浴びせる人はいない。一方でネットにはデマと中傷があふれる。

 善意で気遣う人に対しても、「心の中はどう思っているのだろう」と疑心暗鬼になった。「根っこに私の性や商売への偏見や差別があるからだ」と思うほどに追い込まれた。

 店名を公表したことには「勇気ある判断」と、励ましの声があった。だが、勇気と正義感だけで踏み切れるものではない。鹿児島市保健所から「感染拡大防止のため」と同意を求められ、悩み抜いた。

 「店は続けられなくなる。従業員はどうなる。お客さんを困らせる」。公表に関する国のルールは、十分に定まっていなかった。保健所とのやりとりは発表直前まで続いた。

■店名公表
 今は「公表して良かった」と思う。保健所の電話は直後から鳴りやまず、当日の夜だけで300件を超えた。「『おだまり』に頑張ってほしくて連絡したという電話も多かった」(市保健所)という。

 励ましの一方、悪意も絶えなかった。店に中傷の手紙が届いた。従業員の人数分届いた手紙は、言葉にするだけで気分が悪くなる内容だった。ホームページには「鹿児島を出ていけ」と書き込みがあった。一つの中傷は十の励ましを簡単に吹き飛ばす。人に会うことが怖くなった。

 「目立つ生き方だったかもしれない。その分、人に不快な思いをさせないようやってきた。でも、迷惑を掛けたのは事実。きちんと対策していればという後悔と反省はある」

 自分への戒めとして、中傷の手紙は捨てずに取っている。