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ブリ養殖の救世主になるか 鹿児島で人工種苗の生産本格化 稚魚安定供給に期待高まる

 2021/12/08 18:00
ブリの人工種苗を育てるためのいけす=垂水市柊原のかごしま豊かな海づくり協会
ブリの人工種苗を育てるためのいけす=垂水市柊原のかごしま豊かな海づくり協会
 鹿児島県が日本一の生産量を誇るブリ養殖に欠かせないのが、稚魚のモジャコだ。しかし、今年の採捕量は昨年の半分に低迷。来年以降のブリ出荷への影響が心配される中、養殖業者からは、親魚から採卵して育成する人工種苗への期待が高まっている。3年前から本格的な生産を始めた県は、安定供給に向けて増産を計画している。

 養殖用稚魚の多くは、3~4月に流れ藻に付着して鹿児島近海にやってくる天然モジャコ。採捕業者が養殖業者に販売するほか、養殖業者も自ら取っている。

 近年、採捕量は600万匹前後で推移していたが、今年は306万匹にとどまった。例年よりも流れ藻が少なかったことや流れてくる時期が早かったこと、天候不良で出漁できる日が少なかったことなどが原因として推測されるが、はっきりとは分かっていない。養殖ブリの大半は、このモジャコを1~2年育てて出荷するため、今年取れたモジャコを使う来年以降の出荷分が減ると懸念されている。

 そこで注目が集まっているのが、親魚から採卵、ふ化させて育てる人工種苗だ。人工種苗を使う養殖の比率が高まれば、今年のように天然モジャコの不漁で受ける影響も小さくなる。

 県内では、公益財団法人かごしま豊かな海づくり協会(垂水市)が県の委託を受け、2018年から生産に着手。昨年は24万匹を供給した。

 同協会の施設では、親のブリ約30匹を養殖業者から買い、10カ月ほど屋内のいけすで育てる。温度や明るさを24時間体制で管理し、性成熟を早めて10~11月に採卵。ふ化した稚魚を育て、12月ごろから養殖業者に引き渡す。3月から取る天然モジャコを使う養殖ブリの端境期をカバーし、周年出荷を可能にするためだ。

 協会には今年、養殖業者から昨年実績の3倍近い購入希望が寄せられた。ブリ養殖が盛んな東町漁協(長島町)では、全体の15%超で人工種苗を使う。長元信男組合長(74)は「モジャコの不漁が続けば、養殖への打撃は大きい。価格や経営の安定のためにも、増産を進めてほしい。種苗の質が向上し、成魚にまで育つ歩留まり率も上がってきており、今後必ずニーズは高まる」と強調する。

 県は23年までに、現施設での生産上限に当たる年45万匹の出荷を目指している。矢野浩一専務理事(61)は「卵をふ化させ、出荷できる大きさに育てる技術は上がってきた。今後は親の性成熟をコントロールし、安定的に卵を確保することが課題だ」と話した。

 ■ライバルは北欧産サーモン、輸出拡大へ不可欠

 国内の魚介類消費量が減る中、国は2019年に2873億円だった水産物の輸出額を30年までに1兆2000億円に増やす目標を掲げる。ブリ類は輸出重点品目に指定された。

 海外での取引では、「持続性」や「生産履歴」の透明さが重視される。人工種苗を使えばどんな親から生まれ、どこで何を食べて育ったかが明らかな上、天然資源の乱獲も避けられる。

 世界の市場を席巻しているのが、育種選抜が進んだ北欧産の養殖サーモンだ。これにブリが対抗するには、養殖コスト削減が急務。鹿児島大学水産学部の佐野雅昭教授(59)=水産経済学=は「競争力をつけるには、早く育つなど採算性の高い遺伝子を選抜する育種を進めなければならない」と指摘。鹿児島県が人工種苗生産に使っている親は天然モジャコを育てたものだが、親も人工種苗由来である完全養殖システムを確立する必要性を訴える。

 天然モジャコが豊富なブリでは、これまで人工種苗の需要はそれほど高くなかった。「改良は時間も費用もかかるが、長い目で見れば養殖経営の効率化に不可欠だ。モジャコが取れない年だけでなく、業界全体で協力し安定的なニーズを確保する必要がある」と話した。