【翔べ和牛 王国の礎②】「伸びしろ」 血統が裏打ち ブランド牛生産者「繁殖農家の腕もいい」 鹿児島県外から熱視線
2022/01/16 12:10
競りの前に子牛を下見する前川誠さん(右端)=2021年11月17日、鹿屋市の肝属中央家畜市場
もともとは農業共済組合の獣医師。家業を継いで約20年になる。「やるからには大規模に」。言葉通り、当初100頭程度だった和牛を約1800頭まで増やした。温厚な表情の奥に、やり手の一面を秘める。
屈指の松阪牛農家に成長した背景に、年間9万頭近い子牛を供給する国内最大産地・鹿児島の存在は欠かせない。10年来、600キロ以上も離れた九州南端まで毎月通う。
■戦場
1カ月後、再会した前川さんは厳しい顔つきをし、別人のようだった。
この日は肝属中央家畜市場の競り初日。子牛の名簿を手に、1頭ずつ体を触っていた。同様に県内外の購買者が牛の状態をチェックする。場内は緊張感に包まれ、とても声をかけられる雰囲気ではない。
ピリピリするのも無理はない。いい牛を落札できるかどうかで肥育農家の経営は左右されるからだ。「買い付けはいわば戦場。駆け引きは下見の段階から始まっている」。前川さんの言葉を思い出した。
子牛は生産基盤の弱体化で全国的に数が足りず、新型コロナウイルス禍の今も価格は高止まりする。県内相場はここ数年、70万円前後で推移し、10年前のほぼ2倍に当たる。
午前9時半、競りが始まった。50万、60万、70万…。電光掲示板の応札額が見る見る上がっていく。450頭が上場、最高は107万円の値が付いた。前川さんは15頭を競り落とした。購入額はざっと計算しても優に1000万円を超す。
■血統半分、技術半分
下見のときに何を見ていたのか。競りの後、前川さんに聞くと、「体格や脂肪の付き具合から、その牛が伸びるかを見極めていた」と明かした。
「伸び」とは肥育期の発育の良さ、つまり肉牛としての伸びしろ。子牛のときにしっかり体づくりをしておかないと、餌をよく食べる大きい牛にはならない。「鹿児島の牛は他県産に比べ、伸びが全然違う。子牛産地としての意識が高く、繁殖農家の腕がいい」
さらに、決定的に優れているものがあるという。血統だ。
和牛の仕上がりは「血統半分、技術半分」で決まるとされる。「伸び」は血統が物を言い、子牛の父親である種雄牛の能力が大きく関係する。
前川さんが競りにかけられた子牛の名簿を見せてくれた。血統欄には両親だけでなく、母方の高祖父(曽祖父の父)までの名がずらりと並ぶ。
頻繁に出てくる種雄牛が2頭いる。上場された子牛450頭の実に6割がどちらかの血を引いていた。
「平茂勝(ひらしげかつ)」と「安福久(やすふくひさ)」。
1990年代以降、全国の和牛改良に大きな足跡を残す不世出の名牛である。鹿児島の子牛が注目されるゆえんだ。
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