【翔べ和牛 王国の礎⑤】霜降り肉を敬遠する動き 「今の消費者に食べてもらえる肉を」 変化する嗜好に牛飼い名人の挑戦は続く
2022/01/16 12:40

京都へ出荷する和牛を見送る冨永孝一さん(左)=2021年12月、日置市東市来
笠庄の社長が「研究熱心で、確かな腕を持つ農家」と評す冨永さんは、妻子と3人で400頭を飼う。家族経営の肥育農家としては比較的大きい部類に入る。
しかも、県内では珍しい雌専門である。雌牛は去勢牛に比べて肉が軟らかい半面、うまく飼わないと霜降り(サシ)が入りにくい。高い技術を身に付けられたのも、京都の仕入れ業者でつくる「販売協力会」の後押しがあったからこそという。
県産牛の肥育技術が未熟だった頃から買い支えてくれた面々だ。「駆け出しの一番苦しいときに『冨永を一人前の牛飼いに育てる』と助けてもらった」。その恩を忘れず、育てた牛は京都にしか出さない。
■脱「いも牛」
冨永さんは38歳のとき、急逝した父の跡を継いだ。当時、鹿児島の牛は脂肪が黄色っぽく、県外市場で「いも牛」とやゆされていた。「格付けで最低の『並』が全体の3~4割。競りで値が付かないこともあった」と振り返る。
どうすればきれいなサシが入るのか。京都で高く評価されていた長野県内の先進農家に2年通い、牛の飼い方を一から教わった。橋渡しをしてくれたのが販売協力会だ。門外不出の餌作りまで学ぶことができた。
販売協力会は飲食店や精肉店の経営者が多く、消費者の声を直接聞けた。研修会を何度も開いてもらっては、自分の牛の欠点を聞き出し、改善を重ねた。
そのかいあって「牛飼い名人」の一人に数えられるまでになった。県内の肥育農家には同じように京都、長野に育てられた人が少なくない。
■霜降り肉敬遠
「和牛の良さは上質なサシと肉の甘み、食欲をそそる香りにある」
こう語る冨永さんは、磨いてきた肥育技術への自信は揺らがない。ただ、戸惑うことも増えてきた。高齢化や健康志向の高まりから、消費者の間に霜降り肉を敬遠する動きが広がるからだ。
日本政策金融公庫の2017年調査で「霜降り肉より赤身肉を購入する」との回答が7割近くを占め、5年前より5ポイント増えた。県も昨年3月にまとめた酪農・肉用牛生産近代化計画で「適度な脂肪交雑(霜降り)で値頃感のある牛肉を求める傾向がある」と言及、霜降り一辺倒からの脱却を促す。
さらに、環境保護の意識向上も加わり、海外から穀物飼料を輸入する和牛への風当たりは強い。「最近は(植物由来の)代替肉なんて言葉も聞くようになったからねぇ」。喜寿の名人は嗜好(しこう)の変化に敏感だ。
「牛作りにゴールはないんだ。昨日と同じことを今日もやっていては決して時代に追いつけない。今の消費者に食べてもらえる肉を作っていくだけだ」
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