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口蹄疫やコロナ禍、水害乗り越え21年 ホタル舟の運航に幕 さつま町・二渡地区

 2023/05/31 08:01
ホタル舟を運航してきた「二渡がらっぱボタルの会」のメンバー=さつま町二渡
ホタル舟を運航してきた「二渡がらっぱボタルの会」のメンバー=さつま町二渡
 鹿児島県さつま町二渡地区の川内川で初夏の風物詩として親しまれてきたホタル舟が24日夜、21年の歴史に幕を下ろした。地元有志でつくる「二渡がらっぱボタルの会」は無事故運航を続け、これまでの乗客は1万7500人以上。“ホタルの里”として、地域の魅力を県内外に発信し続けた。

 辺りが闇夜に包まれた24日午後8時前、25人ほどの乗客を乗せた最後の舟2艇が船着き場を離れた。以前に比べホタルは激減し、暗闇を舞う光は少ない。それでも川岸に数匹現れると舟を寄せて停止。乗客は間近で見ることのできる淡い光に「きれい」と嘆息し、幻想的な光景を楽しんだ。

 船頭は、川岸一面が光で埋め尽くされた時期もあったと紹介。ホタルは災害をはじめ環境変化の影響を受けやすい。「数が回復するのにいったい何年かかるのか。自然相手は難しい」と解説した。

 約50分の遊覧が終了。乗客が無事に帰宅の途につくと、スタッフ一同ようやく安心した表情を浮かべた。下麦清正会長(72)は「これまで事故なく運航できたことは誇り。皆さんお疲れさま」と声を詰まらせた。

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 二渡のホタル舟運航は地元民が普段アユ漁で使う川舟に乗り、夜の鑑賞で感動したのがきっかけ。多くの人にも味わってもらおうと5家族を中心に「遊び」半分で同会を立ち上げ、2003年に運航を始めた。

 舟の製作・修理にあたる人、故障したエンジンを直す人、広報を担当する人とおのおのの特技を生かして自前で運航。試行錯誤しながら、口蹄(こうてい)疫と新型コロナウイルスの影響を受けた4年間を除き毎年続けた。

 町内の神子地区と共に九州では唯一、ホタル舟に乗れる地域として知名度も上がった。町役場にも運航シーズン前には問い合わせが殺到し、「さつま町といえばホタル舟」と呼ばれるほどの広告塔になった。夜間運航のため町内の宿泊施設を利用する乗客もおり、町担当者は「経済波及効果も大きかった」と話した。

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 人気を博すホタル舟だったが、06年の北部豪雨で幼虫や餌が流され激減。少しずつ回復していたが、21年の大雨で再び数が減った。さまざまな要因が考えられるものの、数百万匹とも称された川内川のホタルはこの数年、ピーク時の1割にも満たない状況が続く。

 ホタルの減少と共に、運航開始当初は50代前半だった会のメンバーの多くも高齢になった。夜間の操船は特に神経を使うため体力的に年々厳しく、今季限りでの終了を決めた。

 下麦会長は、会立ち上げ時のメンバー2人が鬼籍に入り、「一緒にホタル舟の最後を迎えられなかったことだけが寂しい」と振り返りつつ、「気心が知れた仲間や家族がいて、好き勝手にやってきたからこそ続けてこられた。よくやったと思う」と胸を張った。

 ホタル舟の運航は終わったが、会自体は存続し、今後も観察などを実施してい
くという。一区切りしても川内川にホタルが居続ける限り、歩みは止まらない。