絵本『ねずみくんのチョッキ』に登場するねずみくん(C)なかえよしを・上野紀子/ポプラ社
絵本『ねずみくんのチョッキ』に登場するねずみくん(C)なかえよしを・上野紀子/ポプラ社

45年夫婦で共作した『ねずみくん』シリーズ 愛され続けた理由は“いかにマンネリを味方にするか?”

 絵本『ねずみくんのチョッキ』(1974年刊行)にはじまるシリーズは36巻を数え、累計400万部を超え、昨年45周年を迎えた。本シリーズは、夫で絵本作家のなかえよしを先生が構成を考え、妻の上野紀子先生が絵を描くという二人三脚のスタイルで、45年間作り続けてきたという。それだけの長い期間、夫婦として、ビジネスパートナーとして絵本を作ってきた2人だが、一度も絵本について喧嘩したことがないそう。昨年他界された妻の上野さんの死を乗り越え、今年『ねずみくんのチョッキ』の展覧会を開催中のなかえさんに、絵本に込めた2人の思いを聞いた。

【画像】「か、かわいい、癒される…」絵本『ねずみくんのチョッキ』フォトギャラリー

■作者紹介写真も45年間変わらず ねずみくんの絵本で大事にしたのは『変えない』こと

 美術大学を卒業後、広告会社で仕事をしていたなかえさん。スポンサーからの要望とは関係なく、自由に作品が作りたいと自費で絵本を制作していた。そんな中、ニューヨークに行く機会があり、現地には出版社が多かったことから、急遽作った絵本を売り込んでみようと思ったという。そこで生まれたのが『ELEPHANT BUTTONS』(邦題:『ぞうのボタン』冨山房)という絵本。その後、日本に帰国してから『ねずみくんのチョッキ』が制作され、45年続く「ねずみくん」シリーズになった。

――ねずみくんが生まれたきっかけは何だったのでしょう。

【なかえさん】『ELEPHANT BUTTONS』のゾウさんからねずみという内容展開が好評でしたので、それでは今度は、ねずみからゾウさんへという展開のお話を考えてみました。偶然にもねずみくんの誕生ですね。

――「ねずみくんの絵本」シリーズの絵本を45年の間作り続ける中で、1番大変だったことはどんなことでしたか。

【なかえさん】ねずみくんの絵本で大変だったことは、『変えない』ことでした。同じスタイル、同じ枠付きのレイアウト。お話も起承転結でその後、奥付のページに余韻のページを小さく入れるとか、背景は描かないとか、なるべく同じ動物が出てくるとか、文章はなるべく会話だけにするとか、大人は出さないとか、とにかく同じ繰り返し。マンネリでいくことが大変でしたね。

――「マンネリ」という言葉はあまりいい意味で使われないと思うのですが、「マンネリ」を突き通すことにはどんな思いがあるのでしょうか。

【なかえさん】マンネリですと、新鮮さがなくなり飽きられてしまうものです。でも、人生ってそんなものです。創意工夫でいくらでも楽しくできる、そんなことを伝えたいです。“マンネリズム”大好きです。ちなみに、ねずみくんの絵本の作者紹介なんて45年も同じ写真ですもの。

■「こんなに楽しいことでなんで喧嘩になるの?」夫婦で共同作業を続けられた理由は45年間変わらない『絵』への思い

 自費出版のころから一緒に絵本を制作していたという2人。『ねずみくんのチョッキ』は講談社出版文化賞絵本賞を受賞し、たくさんの絵本の依頼が舞い込んだ。当時は月1冊のペースで絵本を制作していたそうだが、なかえさんがラフを描き、上野さんが絵を仕上げるという役割分担をしていたという。以前、上野さんとの仕事について聞かれたなかえさんは、「ほかの人とやるよりラクチン」だと明かしている。2人が45年もの間、共同作業を続けてこられた理由は何なのだろうか。

――最初に絵本を作ろうと思ったのはなぜだったのでしょうか。

【なかえさん】妻の上野もぼくも、美術学校を出たのですが、画集ばかり観ていました。自分たちの画集を作りたいと思うのは美術を志す人は誰もが思うことだと思います。画集は絵の本です。つまり絵本です。絵本の世界には自然と入っていきました。絵の本を作ってこられて幸せです。

――奥様である上野さんも同じような思いだったのでしょうか。

【なかえさん】上野はとにかく絵を描くことが好きな人でした。自分から絵を取ったら何もないとよく言ってました。ですから絵を描く時は真剣で、そばでちょっとでも音楽を聴いていようものなら『うるさい、描けない』とよく怒られました。小さなねずみくんの絵でも、上野が描いてる時、ぼくは静かに息を止めていました。

――お2人とも本当に絵が好きだったからこそ、45年間も共同作業を続けてこられたのですね。一方で、長い間夫婦生活を続けておられると、仕事やプライベートで対立したりすることもあるかと思うのですが、いかがでしょうか。

【なかえさん】絵のことで喧嘩をしたことは一度もありません。こんなに楽しいことでどうして喧嘩になるでしょうか。喧嘩は『おーい、トイレの電気がつけっぱなしだぞ』『消したわよ』『だって、ついてるじゃん』なんて言うので喧嘩してました。

■小さくて目立たない“ねずみくん”の一生懸命生きる姿を伝えたい

 新型コロナウイルスの影響で開催が延期されていた展覧会『誕生45周年記念 ねずみくんのチョッキ展 なかえよしを・上野紀子の世界』が、横浜赤レンガ倉庫で27日まで開催しており、その後も静岡、東京で開催が予定されている。シリーズ最新作を含む絵本原画、スケッチなど約150点を展示されており、上野さんが絵を手掛け、小学校の教科書にも掲載された『ちいちゃんのかげおくり』の原画も見ることができる。

――今回初めての大規模展覧会とのことで、開催の話を聞いたときはどのように思われましたか。

【なかえさん】ただでさえ大きな展覧会を開催していただくということで、小さなねずみくんが持ちこたえられるか心配でした。その上にコロナ禍で心配が倍増中です。

――本展覧会をどのように楽しんでいただきたいですか。

【なかえさん】原画展ですので原画を楽しんでいただきたいのですが。普通、本の絵の原画は1.5倍に大きく描きます。印刷では縮小されて細かい絵に見えるからです。しかし、このねずみくんの原画は印刷された絵本と同じ大きさ原寸大で描かれています。そのために、細かく描かねばなりませんでした。上野は虫眼鏡を使って、一生懸命、細かくねずみくんを描いていました。そんな小さなねずみくんの絵を、そばでじっくり見てください。

――最後に「ねずみくん」シリーズの読者にメッセージをいただけますでしょうか。

【なかえさん】童話『星の王子さま』で「大切なものは目に見えない」という言葉があります。ぼくのだい好きな言葉です。ねずみくんからみなさんへのメッセージは「ねずみくんは小さくて目立たない、でも絵本の中で一所懸命生きてるんだよ」ですね。
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