2021/05/13 18:04

「お帰り」。同僚の笑顔に救われた。つらい経験はもういや。不要な外出はしない。いつも崖っぷちの気分。追い込んでいるのは自分自身だ。

入院から職場復帰まで、女性には島内外の多くの人から激励のメッセージが寄せられた(画像は一部加工しています)
入院から職場復帰まで、女性には島内外の多くの人から激励のメッセージが寄せられた(画像は一部加工しています)
〈コロナの爪痕 与論の元感染者に聞く④〉

 8月6日に与論町の職場へ復帰する。「勤務中に笑ったら『何を笑っているんだ』と怒られるんじゃないか」「近くを通ったら避けられるんじゃないか」。差別を受けることへの不安は大きかった。

 当日は知り合いに見つからないよう、いつもと違う道を通って出勤した。駐車場で車を降りたが、なんだかぎこちない歩き方になってしまう。同僚に会うのがとにかく怖かった。

 職場に着くと同僚の姿が目に入った。なんて言えばいいんだろう。まずは謝らなければ。その前に同僚が笑顔で「おう! お帰り」と、私が夏休みから帰ってきたかのように話しかけてくれた。感染前と何も変わらない同僚の言動に、うれし涙が出そうになった。私もいつも通りに振る舞わなければ。涙をこらえて声を振り絞った。

 「ただいま」

■不要な外出せず
 息子は8月末からスポーツ少年団の練習に復帰した。友達の家にも遊びに行き、感染前と同じように過ごしている。私も周囲からの差別や中傷を感じることなく、平穏な日々を送る。

 ただ、息子はテレビで新型コロナの話題が出るとすぐにチャンネルを変えるようになった。私も不要な外出はしなくなり、自宅で晩酌する機会が増えた。「つらい経験を二度としたくない」「また感染したら、温かく受け入れてくれた島の人々を落胆させてしまう」と考えると外に出られない。

 感染した知人からは「周囲に『感染したことは悪くない』と繰り返し励まされ、逆に感染したことを責められているような気持ちになって、周囲を避けるようになった」と打ち明けられた。

■感謝を伝えたい
 9月中旬、知人を通して今回の取材の依頼があった。「今更思い出したくない」と断るつもりだった。だが、自身が感染した際、感染者の症状や経過などをネットで調べても具体的な情報がほとんど出てこなかったことを思い出す。

 「私の経験を詳細に伝えることで、感染におびえる人の役に立てるなら」と引き受けることにした。私たち親子に温かく接してくれた島の人々、医療・行政関係者に改めて感謝を伝えたい、との思いもあった。

 感染から3カ月がたった今も、「不注意な行動をすると『コロナで迷惑を掛けたくせに』と思われるんじゃないか」とびくびくする日々が続く。緊張の糸が張り詰めた状態で崖っぷちに追い込まれているような気持ちは消えない。追い込んでいるのは自分自身だ。

 この恐怖からいつ解放されるのか、いつまで「元感染者」として過ごさなければいけないのか―。コロナが残した爪痕は、まだ消えそうにない。
=おわり=

(2020年10月23日付)
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