「そんなにたたかないで」寝たきりの母の懇願 老老介護に疲れた70代の息子はわれに返った たった一度の激高が招いた重大な結果
2021/05/30 13:00
男は寝たきりの母を車いすに乗せることもあった(写真と記事は関係ありません)
罪名は傷害致死。寝たきりの母(90)がベッドシーツにたんを吐いたことに腹を立て、下あご付近を何度か平手でたたいた。目立った外傷はなく、男は普段通り夕食を食べさせた。容体の急変に気づいたのは翌朝だった。
男は県外などで勤務したこともあったが、故郷の鹿児島に戻り、両親と同居した。やがて父が亡くなり、母と2人暮らしに。母は転倒して太ももを骨折したことなどから、ベッドに寝たきりの生活となった。
頼りの年金は2人合わせて月10万円ほど。つつましく暮らしてきた。生活費が足りない時は畑を売って工面した。母の介護はデイサービスを利用しながら、食事を食べさせたり、おむつを交換したりと世話をした。
「シーツが大きくて、洗濯しにくいと思った」。裁判員裁判の被告人質問で、腹を立てた理由をそう答えた。シーツを外すには、母をベッドから抱え上げて車いすに乗せなくてはいけない。洗って干すのも手間がかかる。心臓に持病がある男にとって重労働だった。
ただでさえ日々の介護は手を抜けず、負担に感じていた。突発的な怒りを抑えきれない男に、母は男の名前を呼びながら「そんなにたたかないで」と懇願した。はっとしてわれに返ったが、すでに母の体はダメージを負っていた。
「被害者に落ち度はない。動機は短絡的で、相応の非難が妥当だ」。検察側は懲役5年を求刑した。振り返ると、母は献身的な介護への感謝を口にしていた。男は「私を育ててくれた。墓参りをしたい」と声を震わせ、弁護士に差し出されたハンカチで涙をぬぐった。
判決は懲役3年、執行猶予4年。「身体的に厳しい介護をする中で、いら立ちを抑えきれずに犯行に至った経緯は同情できる」と言及した。地域の住民らが刑の軽減を求める嘆願書を出した点も考慮された。
老老介護の末に起きた事件。審理を担った裁判員は「苦労が分かるだけに、情に流されないように心掛けた。それでも、感情が揺れる裁判だった」と胸の内を明かした。
介護経験のある裁判員は「介護は終わりのないマラソンのようなもの。命が長く続くことを願う半面、改善はなかなか見込めず、つらくなる。行政や福祉のサポートが欠かせない」と語った。
判決の言い渡し後、裁判官や裁判員はメッセージを送った。「介護の負担が大きく、無理をしていた部分もあった。母の供養をしながら、孤立しないよう過ごしてほしい」。男はじっと聞き入り、うなずいた。
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