2021/06/22 21:00

危険すぎる絶好の釣り場 悪天候、高波… 相次ぐ海中転落 救助の漁師も「命懸け」 鹿児島・佐多辺塚

切り立った崖が迫る佐多辺塚の地磯。天候の変化には細心の注意が必要だ
切り立った崖が迫る佐多辺塚の地磯。天候の変化には細心の注意が必要だ
 南大隅町佐多辺塚の地磯で今年に入り、仲間と釣りをしていた県内の男性が高波にさらわれる事故が相次いだ。消防から連絡を受けた地元漁船に救助されたが、当日はいずれも波高5メートルとしけており、「救助する側も命懸け」との声が聞かれる。黒潮が流れ魚種も豊富なことから、人気のスポット。瀬渡し船を使わず、山を歩いて入る人も多い。関係者は「天気と波に細心の注意を払って」と呼び掛ける。

 2件の事故が起きたのは、陸上自衛隊佐多射撃場近くの同じ場所。スズキやブリ、高級な根魚が狙えるとして、県内はもとより、県外からも多くの釣り人が訪れる。

 2月13日午前7時15分頃、仲間2人と釣りに来た錦江町の男性(33)が転落した。当時の風速は6メートル。4月3日朝には霧島市の男性(37)が波にさらわれた。この日の風速は7メートルだった。

 2人とも救命胴衣を着け、1時間ほど漂流。地元漁船に助けられた時には低体温症になっていた。第10管区海上保安本部のヘリやドクターヘリも出動。静かな集落は騒然となった。

 沿岸部の海難事故では、地元漁師らでつくる県水難救済会が救助に向かうことが多い。潮流など現場の海を熟知しており、一刻を争うケースに素早く対応できる。今回も、同会の南大隅町佐多救難所のメンバーが要請を受けた。

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 「白波が立ち、波の高さは5、6メートル。漁にも出られない状況だった」。2件の現場に長さ7メートルの小型船で駆けつけた漁師の上籠滝二さん(60)は振り返る。「荒れている海への出動は家族が心配するし、『なぜこんな日に釣りを』との思いもよぎる。だが、命が懸かるとなれば断れない」と複雑な心境を打ち明ける。

 太平洋に臨み黒潮が流れる佐多の海は、磯釣り愛好家の人気を集める。最近は女性も増えている。魚種が豊富で、中でもヒラスズキは、波が岩にぶつかり泡立つ「さらし」ができる時に釣果が上がるとされ、あえて悪天候を狙う人もいるという。

 今回の2件の事故のように、瀬渡し船を使わず山を下って地磯で釣りをする場合、天候判断は自分でしなければならない。上籠さんは「釣り場に着いてもすぐ釣りを始めず、10分ぐらいは波の様子を観察した方がいい」と話し、見極めの重要性を強調する。

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 佐多救難所の辺塚地区のメンバーは15人。高齢者が多く、実働できるのは4、5人という。

 事故が相次いだのを受けて、たまらず町に注意喚起を要望。救難所の事務局がある町は5月下旬、「しけている時は諦める勇気も大切」などと呼び掛ける看板を、現場近くの県道沿いに設置した。

 10管本部によると、鹿児島県内では陸上から海への転落事故が2016~20年の5年間で49件発生、28人が死亡・不明となっている。佐多エリアでは4件発生、2人が亡くなった。

 夏になると、佐多の地磯には夜釣り客もやってくる。指宿海上保安署は釣り人に救命胴衣着用と複数での行動を呼び掛ける。看板を置いた町は「無理をすると自分だけでなく、救助に向かう地元の人たちの命も危険にさらされるということを忘れないで」と訴える。

■鹿児島県水難救済会 公益社団法人「日本水難救済会」の地方組織で2000年に設立された。海上保安庁などから要請を受け、浅瀬が多い沿岸部を中心に海難救助に向かう。「海の消防団」とも呼ばれ、県内各地の拠点となる救難所は、救済会に先立ち1995年に県内で初めて与論町で発足。現在43カ所ある。
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