《向田邦子 没40年》漫画家・西炯子さん■好きな短編集は「男どき女どき」。女の気持ち、説明できない感覚を細やかに描く。深く掘り下げる表現 漫画でも
2021/08/22 10:00

西炯子さんが描いた向田邦子さんの横顔=かごしま近代文学館提供、企画展「向田邦子と日々の器」(2017〜18年)図録より
少女時代を鹿児島で過ごした脚本家、直木賞作家の向田邦子(1929~81年)が飛行機事故で世を去ってから22日で40年。時を経ても、心の機微をとらえた文章やライフスタイルは共感を呼び、次の世代が新たな表現を生んでいる。向田が「故郷もどき」と呼んだ地で育ったクリエイターに、その魅力や作品への影響を聞いた。
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向田作品で最初に触れたのは「寺内貫太郎一家」。人気スターが出演するホームドラマとして楽しく見ていて、後に脚本が向田さんと知りました。大人になって文章を読み返すと、女の気持ちや感覚をここまで深く細かく描けるのかというほど掘り下げている。主に女性の心を捉えている大きな魅力の一つではないでしょうか。
短編集で好きなのは「男(お)どき女(め)どき」。息をのむ、よくできた話ばかりです。「嘘(うそ)つき卵」の主人公は、子に恵まれず悩む女性。外で夫のことを考えていたら、行きずりのカメラマンに撮られてしまう。その写真には、自分の知らない「女」の顔が。後に妊娠が分かった彼女は「この瞬間にみごもったのだ」、と思う。説明しても分からない感覚でしょう。ここまで書けるのだと驚き、「私にもまだ描くことがいっぱいある」と勇気づけられました。
エッセー「字のない葉書」では、疎開する幼い妹に「元気なら丸を書いて」と宛先だけ書いたはがきを持たせる話が描かれます。戻った妹に父が抱きつく、胸が締め付けられるような場面。これがたった2行ほどで書かれている。深い愛情が伝わってくる、すごい表現力だと思いました。私の漫画「娚(おとこ)の一生」にも、迷子の少年を家に帰す時、同じように宛先が書かれたはがきを手渡すエピソードを盛り込みました。
向田作品では、気持ちの動きが細かく描かれます。簡潔で、行間を読ませる文章。一方で漫画は展開が早く、限られたページの中で心の揺れを描写するのは難しい。私も女の生きざまを描く物語を作ってきました。揺れ動く感情を、せりふ以外の部分でもっと細やかに表現できればと思っています。もう少し時間をかけ、落ち着いて描く機会があれば。年を重ねた読者へ向けて、人の心を、女としての感覚を、深く掘り下げてみたい。
彼女が着ていた服、使っていた物は今見てもすてきで憧れです。洋服や帽子も作っていたそうで、一晩でコートを仕立てるほどの腕前。元々鋭敏な感覚があって、好みの物を自分で作る青春時代を経て審美眼が確立したのではないでしょうか。私も時々洋服を縫います。見習って、この趣味は続けるつもり。
新型コロナウイルス禍で、人と人とが実際に会う機会が減り、心も離れがちになっています。だからこそ相手の気持ちや状態を、以前よりも想像するようにしよう、と。よく観察し、人に対する細やかな感情、興味を持つ。向田作品の中には、人間関係を切らさずにつなぐヒントがある気がします。
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