2021/09/19 13:00

NHK記者の過労死が問うもの ドキュメンタリー制作者「組織の問題、普通に話せる社会に」

NHK記者の過労死をテーマにしたドキュメンタリーについて話す尾崎孝史さん=東京
NHK記者の過労死をテーマにしたドキュメンタリーについて話す尾崎孝史さん=東京
 2013年に31歳で過労死したNHK記者・佐戸未和さんの遺族や同僚らにインタビューしたドキュメンタリー「未和 NHK記者の死が問いかけるもの」(全5回、約60分)が、東洋経済オンラインで無料動画配信されている。制作したフリーの映像制作者、尾崎孝史さん(55)=東京都江東区=に話を聞いた。

 -きっかけは。

 「初任地・鹿児島放送局に2005年配属された佐戸さんは、志布志事件や拉致問題の取材を精力的にこなす志の高い記者だった。彼女が亡くなった当時は、自分も外部スタッフとしてNHK内で働いていた。面識はなかったが仲間の死にショックを受け、せめてその足跡を記録に残したいと考えた」

 -19年には、著書「未和 NHK記者はなぜ過労死したのか」(岩波書店)も出版した。

 「佐戸さんの死が公表された17年10月以降、100人以上に取材してきた。広く知ってもらおうと、テレビ局をはじめさまざまな媒体に企画を持ち込んだが、NHKとの関係悪化を気にしてか、反応はいまいちだった。今回は、東洋経済オンライン編集長が熱心に動いてくれて、動画公開までこぎ着けた」

 -NHK職員にもインタビューしている。

 「取材に応じた職員は少なくなかった。ただ、過労死のきっかけとなった過酷な選挙取材を含め組織の問題点を語りたいという思いと、所属組織を批判できないとか自由に語るのがはばかられるといった気持ちで葛藤する人が多かった。自らの人事への影響を危惧したのかもしれない」

 -佐戸さんの死因は、公表まで4年かかっている。

 「組織として問題がある。残業時間の見直しやテレワーク導入といった働き方を変えれば過労死が減るということではない。NHKが職員をどう扱ってきたか。その後ネガティブな問題が起きた時に内部はいかに対応したか。透明性は確保されていたか。佐戸さんの死は、NHKに限らず日本全体にはびこる組織社会的な問題を問うている。NHKには優秀なカメラマンや記者が大勢いる。検証する番組を、ぜひ自らの手で作ってほしい」

 -現在もNHKの番組制作にかかわる。

 「ここ数年で仕事の依頼は目に見えて減った。志半ばで命を落とした仲間を記録しようとしたら、仕事がなくなる。本やドキュメンタリーがNHK批判と受け取られたのだろうが、そういうことが許される社会を僕らの世代はつくってきたのか、と痛切に感じる。若い世代に申し訳ない。会社や所属組織の問題を普通に話せたり声を上げられたりする社会にしなければ、佐戸さんの死に報いることはできない」

 おざき・たかし 1966年、大阪府生まれ。映像制作者、写真家。NHKでドキュメンタリー番組の映像制作に携わる。「クローズアップ現代+」「ETV特集」などに写真提供。著書に「汐凪を捜して 原発の町 大熊の3.11」(かもがわ出版)など。
広告