【馬毛島案の源流 FCLP移転計画(5)南西防衛の要】米中対立の最前線に

 2021/10/15 10:55
離島奪還訓練に取り組んだ米海兵隊と陸上自衛隊の隊員=2018年10月、中種子町野間の旧種子島空港
離島奪還訓練に取り組んだ米海兵隊と陸上自衛隊の隊員=2018年10月、中種子町野間の旧種子島空港
 日本と米国の安全保障体制は米ソ冷戦終結以降、米中枢同時テロや中国の台頭などを背景に大きく変わってきた。2015年の安全保障関連法制定を機に、自衛隊と米軍の連携は一層深まり、一体運用が進む。

 中国が東、南シナ海での海洋進出を加速させ、台湾への統一圧力を強める中、日米の連携先は欧州やオーストラリアにも広がる。今月4日には米海軍横須賀基地(神奈川県)に英海軍最新鋭空母「クイーン・エリザベス」が初めて入港。5月に英国を出港後、沖縄南方などで日米欧の共同訓練を重ね、抑止力の象徴である空母が存在感を示した。

 対する中国も、艦艇を奄美大島東側や大隅半島と種子島の間の大隅海峡を通過させた。鹿児島をはじめ南方の海で大国間のにらみ合いが相次ぐ。

 「好むと好まざるとにかかわらず、台湾情勢が世界の安保の最前線。台湾と(日本最西端の)沖縄県与那国島とは110キロしかなく、日本は第三者でいられない」。自衛隊の統合幕僚長を務めた河野克俊氏(66)は強調する。

■増える役割

 10年の防衛大綱に掲げた「南西諸島の防衛力強化」方針に基づき、政府は沖縄本島を除き実戦部隊がなかった“防衛力の空白地帯”に新部隊を次々と配備。奄美市に陸自奄美警備隊の地対空ミサイル部隊(19年)、瀬戸内町には瀬戸内分屯地の地対艦ミサイル部隊(同)などを発足させた。

 こうした流れの中、11年の日米安全保障協議委員会(2プラス2)で米軍空母艦載機陸上離着陸訓練(FCLP)移転候補地に示された西之表市馬毛島の基地整備計画も重みが増す。

 最新鋭ステルス戦闘機F35Bや輸送機オスプレイ、水陸両用のエアクッション艇…。陸海空3自衛隊の訓練にとどまらず、事実上の空母へ改修する「いずも」型護衛艦が入港できる規模を想定した港湾施設も整備予定で、役割はFCLPにとどまらない。

 鹿児島では離島奪還などを想定した日米共同訓練も近年相次き、防衛省は馬毛島を「南西防衛の要にしたい」と期待感を隠さない。

■標的

 河野氏は「平和的な外交解決が大前提」とした上で防衛力の増強が中国への抑止になると主張。相手の射程圏外から攻撃できる「スタンド・オフ・ミサイル」の配備も必要と唱える。「リスクが大きいと分からせなければ交渉できない」とし、敵基地攻撃能力の議論が欠かせないとする。

 敵基地攻撃を巡っては、4候補が争う自民党総裁選でも肯定的な発言が目立つ。ただ、どの時点で攻撃に着手したと判断するかが難しく、憲法で定める専守防衛の範囲があいまいになる恐れもはらむ。

 2プラス2の共同文書に馬毛島を明記した民主政権時の防衛相、北沢俊美氏(83)は「安保関連法で憲法改正を先取りした形になっている。9条精神を守りながら外交で知恵を絞るべきだ」と警鐘を鳴らす。

 かつて国防の中枢で共に政策を練った両氏。今では主張が異なるものの、「国民の十分な合意形成が不可欠」との考えで一致する。どんなに時代が変わっても部隊の安定運用は地域の支えがあってこそだからだ。

 いざ「有事」が起きれば、日本は直接攻撃を受けなくとも米軍とともに集団的自衛権で武力行使も可能になった。その時、鹿児島の防衛施設が“標的”になる可能性は高まる。

 米ソ冷戦を源流に長い間漂ったFCLP移転先。候補地としてたどり着いた馬毛島の目前では先の見えない米中対立が続く。地元の不安をいかに解消し信頼関係を築くか。政府の姿勢が問われている。=おわり=