〈衆院選 鹿児島〉胎児性患者「水俣病忘れないで」 高齢化や症状悪化、親と死別… 公式確認65年「大きな国政課題」

 2021/10/19 11:00
 水俣病は公式確認から65年が過ぎた。母親の胎内でメチル水銀に侵され、生まれながらに病を抱えた胎児性患者も年を重ねた。症状悪化や身体機能の衰えに不安は尽きない。頼りの親も高齢となり、死別するケースが増えた。水俣病が衆院選の争点になる機会は少なく、患者や支援者は「大きな国政課題。忘れないで」と訴える。

 公開中のハリウッド映画「MINAMATA ミナマタ」。題材となった故ユージン・スミスと元妻アイリーン・美緒子・スミスの写真集には、首にカメラを下げて笑う少年が収まる。出水市で生まれ育った胎児性患者長井勇さん(64)=熊本県水俣市=が10代の頃の姿だ。映画には長井さんがモデルとみられる少年も登場。「2人との思い出がよみがえった。懐かしい」とほほ笑む。

 長井さんは10年ほど前に症状が悪化し、急に体に力が入らなくなった。それまではってでも自力で入浴やトイレができたが、今は車いすからベッドへ移動するのにも介助が要る。「自分でどこにでも行けないのがつらい」

 親も高齢となり、7年前に古里を離れて水俣市のグループホームへ。精神的支柱だった父親は昨年7月に亡くなり、母親も90歳に迫る。熊本県には胎児性・小児性患者を対象にした住宅改造助成や地域生活支援など各種事業があるのに対し、鹿児島県にはない。長井さんが毎週日曜に戻る実家にリフトを設置できれば移動の自由度が増すものの、レンタル費用がかさむため人手に頼らざるを得ない。

 30年近い付き合いがある水俣病胎児性小児性患者・家族・支援者の会の加藤タケ子事務局長(71)は「胎児性や小児性の患者さんには30代から実年齢以上の加齢現象がみられる。家族も高齢化し、さまざまな不安や困難を抱えている」と話す。

 水俣病は病像さえ定まらず、根本的治療法がない。歩けなくなるなど身体機能の低下が明らかでも補償ランクの変更を却下され続け、「実態に見合っていない」と訴える患者もいる。特措法が定めた住民健康調査は10年以上も手つかずで、司法に救済を求める声も後を絶たない。

 「水俣病をきっかけに環境庁(現環境省)が発足して50年たっても未解決のまま。患者の身に起きていることを、わがこととして取り組む姿勢を国政には求めたい」と加藤事務局長。長井さんも水俣病への理解がある人に1票を託すつもりだ。「二度と公害を出してもらいたくない。忘れちゃいけない」と言葉を絞り出した。
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