【衆院選鹿児島 論点を問う】各党公約に「経済対策」。でも、需要喚起の恩恵は行き渡らない。〝息切れ・あきらめ倒産〟の不安

 2021/10/25 07:30
 南九州市知覧の特攻平和公園に10月初旬、久々の修学旅行生が訪れた。鹿児島県の新型コロナウイルスまん延防止等重点措置の解除後初の再開。この夏猛威をふるった第5波で、シャッターを下ろす日々が続いた一帯の食堂や土産店は、にわかに活気づいた。

 昼食会場の知覧桜見亭。従業員の笑顔と明るさが戻った店内にひと安心しつつも、松岡光政社長(53)の表情は厳しかった。「旅行会社の情報でも、当分は近場旅が中心になりそうだ。県内需要だけでは店は立ち行かず、苦境は当分続く」

■ばらまきに疑問

 政府の観光支援「Go To トラベル」は、感染拡大を受け昨年末に停止。代替措置として鹿児島を含む各県では、国の補助金で住民向けの県内旅行割引が実施されている。需要喚起効果はあるが、多くはマイカー利用の個人客。松岡社長は「単価の低い宿や地方のレンタカー、バス、売店に恩恵は行き渡らない」と支援の偏りに憤る。

 各党は公約に「経済対策」を掲げるが、出水市で旅行業と観光バスを営む宇佐三保子さん(61)には、どれも響かない。「大変ですね、支援します、とは聞こえてくるが、具体策は不明」。個人や企業に給付金を出すといわれても、「ただのばらまきにならないか。本当に必要なところに届くのか」と疑問視する。

 地元客向けにバス旅行を企画してきた。車両はいつでも動かせるよう税、保険料を払い維持してきたが「1年半以上ぴくりともしなかった」。広告を打ったツアーが埋まったのに、感染拡大で泣く泣く中止したことも一度ではない。団体旅行を避ける風潮はいつまで続くのか。「運転できないお客さまもいる。ほそぼそでもやっていかなければ」と自らに言い聞かせている。

 観光が基幹産業である屋久島。入り込み客数は昨年より悪化し、コロナ前の2、3割程度とみられる。ホテルは稼働せず、飲食料や燃料・備品の納入、外食、商店、ガイド、交通と多くの事業者があおりを受ける。

 「島の経済全体が深刻な状況に陥っている。このままでは冬を越せない業者が出る」と屋久島観光協会の後藤慎会長(48)は懸念。トラベル事業の早期再開を求める。「全国一律ではなく、船や航空の2次交通が必要な離島、地方に手厚くして」。資金繰り支援や税制優遇も要望する。

■資金繰りに不安

 東京商工リサーチ鹿児島支店によると、コロナ禍で多くの業種が売り上げ減少を余儀なくされたが、倒産件数は低水準が続く。無利子・無担保融資や雇用調整助成金といった支援策が、資金繰りを支えてきた。半面、過剰債務に陥っている事業者が目立つ。「出口戦略へ向けた政府の支援策の見直しによっては、疲弊した中小事業者を中心に“息切れ・あきらめ倒産”が増える恐れがある」と指摘する。返済繰り延べや事業立て直しが課題となる。

 観光は団体から個人型への移行が加速。訪日客回復も見据え、体験型メニュー創出や長期滞在の取り込みと新たな需要への対応は急務だ。しかし、日々持ちこたえるのに精いっぱいなのが実情。「少しずつでも経済を動かしていく、その機運づくりを政治に求めたい」。屋久島の後藤会長の訴えは切実だ。