【翔べ和牛 王国の礎①】鹿児島生まれの子牛「金の卵」 松阪牛の生産者「ほれぼれする」 全国のブランド産地支える

 2022/01/16 12:00
前川農場がスギモトに納めた松阪牛のブロック肉。サシがまろやかで甘いのが売りだ=2021年11月、名古屋市の松坂屋名古屋店
前川農場がスギモトに納めた松阪牛のブロック肉。サシがまろやかで甘いのが売りだ=2021年11月、名古屋市の松坂屋名古屋店
 鹿児島は和牛生産で国内トップシェアを誇る。質、量兼備の黒牛は全国のブランド牛産地を支え、大消費地の胃袋も満たす。連載「翔べ和牛」第1部は、県産牛の活躍を追いながら「和牛王国」の今を見ていく。 

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 中京地区最大の繁華街、名古屋市栄にある松坂屋名古屋店。年末商戦真っただ中の地下食料品店街は買い物客でごった返していた。

 テナントの一つ、老舗精肉店「スギモト」に松阪牛のブロック肉が運ばれてきた。ピンク色の赤身に細かく入った霜降り(サシ)が美しい。

 客の注文に応じてカットする最高級部位シャトーブリアンは100グラム当たり7668円。名高い松阪ブランドとあって、同じ部位でも一つ下の棚に並ぶ「国産和牛」のほぼ倍の値がする。

 目を丸くしていると、店舗責任者の村瀬一次さん(51)が「松阪牛のサシはまろやかで甘い。別格のおいしさだからこそ、それにふさわしい価格で提供させてもらっている」。新型コロナウイルス禍にもかかわらず、贈答品として売れ行きは好調という。

■ピンクの耳票

 松阪牛の証明書を見せてもらった。生産者は「株式会社前川農場」、住所は「三重県津市一志(いちし)町高野」。

 一志町は松阪市に隣接し、生産者らでつくる松阪牛協議会が定めた「生産地域」の一つ。前川農場はのどかな田園地帯にあった。

 牛舎は8頭ごとにパイプ柵で区分けされ、子牛が飼料をはんでいる。社長の前川誠さん(59)によると、ここにいるのは1歳に満たない約260頭。ある程度大きくなれば、松阪市内にある別の牛舎に移す。生育段階に応じた餌を与えるためだ。

 ピンクの耳票を付けた牛が多いのに気付く。見渡したところ8割くらいだろうか。前川さんを見ると、にやりと笑った。「ピンクばっかりでしょ。それ全部、鹿児島生まれだよ」

 前川さんの農場では、子牛をどこの家畜市場から買ってきたかが分かるよう、耳票を県別に色分けしている。とりわけ鹿児島の牛にほれ込む。

 名古屋のデパ地下で見た松阪牛シャトーブリアンも、登録番号をたどると屋久島で生まれた牛だった。

■2割超

 鹿児島に生まれ、県外で育つ-。高度成長期に地方の若者が「金の卵」と重宝された仕組みに似た世界が、和牛には存在する。

 和牛生産では、子牛を産ませて生後9カ月前後まで育てる「繁殖農家」と、子牛を20カ月以上かけ肉牛に仕上げて出荷する「肥育農家」の分業体制が確立している。牛は最も長く飼われた場所が産地となるため、県産子牛が県外農家に買われた場合、店頭表示で「鹿児島」の名は残らない。

 「うちには三重県で生まれた牛はほとんどいない」と前川さん。松阪牛協議会によると、鹿児島産の子牛は全体の2割超を占め、その数は2000頭を超すという。

 一志町の農場に大きなエンジン音が近づいてきた。「やっと来たか。盛大に歓迎してやらないとな」。大型トラックに乗ってやって来たのは、4日前に鹿屋市の肝属中央家畜市場で買い付けた子牛24頭だった。

 従業員が1頭ごとに体重を量り、大きさに応じて牛舎に入れていく。作業を見守る前川さんが満足そうにうなずいた。

 「やっぱりいい牛だ。ほれぼれするねえ」