オーストラリアの愛好家が落札した日本刀 調べてみたら旧国宝? GHQが鹿児島神宮から接収、所在不明の「伝則重」

 2022/02/26 11:01
オーストラリアで発見された「伝則重」とみられる刀(イアン・ブルックスさん、梅野勉さん提供)
オーストラリアで発見された「伝則重」とみられる刀(イアン・ブルックスさん、梅野勉さん提供)
 かつての国宝で鹿児島神宮(霧島市)が所蔵し、太平洋戦争後に所在不明となった刀「無銘 伝則重(のりしげ)」とみられる日本刀を、オーストラリアの愛好家が発見した。刀身や装具の特徴が日本に残る記録と一致しており、専門誌で調査結果を発表。関係者は「ほぼ間違いない」と確信を深めている。

 「伝則重」は鎌倉時代の刀工・則重が作ったとされる刀。同神宮の伝則重は島津斉興が1818(文政元)年に寄進した脇差しで、1945(昭和20)年、連合国軍総司令部(GHQ)に接収された。18(大正7)年に国宝指定を受けていたが、50(昭和25)年の文化財保護法施行で、所在不明のまま重要文化財に改められた。

 伝則重とみられる刀は2018年、メルボルン在住の弁護士イアン・ブルックスさん(65)が、ネットオークションで米国の個人から購入。ブルックスさんが1月発行の専門誌「刀剣美術」で発表した論文によると、入手した翌19年に文化庁ホームページで伝則重のデータを見て、自身の刀との共通点に気付いた。

 日米豪の専門家、愛刀家仲間の協力を受けて調査すると、付属の小刀や鐔(つば)に刻まれた銘、ラベルの番号、金具の意匠などが、文化庁や同神宮の記録と一致した。この刀が伝則重で、GHQの兵士が戦利品として米国へ持ち帰ったとみている。

 論文を受け取った日本美術刀剣保存協会の石井彰・刀剣博物館主任学芸員(52)は「きちんと手入れされた状態で見つかった、極めて幸運なケース。高確率で伝則重に間違いないだろう」と語る。文化庁文化財第一課も「実物を見ないと断定できないが、いくつもの特徴が一致するため、所在不明の伝則重と思われる」との見解を示した。

 ブルックスさんは50年前から刀を収集、研究しており、遺言書には「伝則重を鹿児島神宮へ戻す」と記したという。鹿児島神宮の井上容一権禰宜(49)=ごんねぎ=は「80年近くたってから消息が分かり奇跡と言うほかない。大切にしてくれる人の元にあるなら、ありがたい」と話している。